1 裏仕事
漸く日が暮れて奴らの活動時間となってきた。はてさて此処からが我らの活動時間だ。
「氷室、場所は何処?」
「此方です」
固いコンクリに足を叩き付け、バタバタと走り去る。左側には交通量の多そうな道路があり、左側にはショウウィンドウの顔成しマネキンが私達を横目で見る。細道を通り、狭まった道なき道を駆け抜ければ……居た、ターゲットだ。
「此奴?」
「はい!!」
薄暗い路地裏。やはり“此奴等”にとって日光は行動を抑制させるらしい。かなり年期が入った体は既に強烈な腐敗嗅をさせ、服は着ているものの皮膚が焼けただれている。
「よくもまぁ、見つけられずに生きていたというか……」
呆れ様に言えば、魚の眼のままを向けて襲いかかってきた。弾力を失った肌が走るたびにぐずぐずと形を変形させる。
近寄って来た一体に二の腕を掴まれ、穿たれた皮膚がビスクに変わり、血が流れ出す。この妙な感覚は本当に気持ち悪い。取り敢えず、薄汚い手を払うように左手で楽器ケースを振り回し、爪を抜き去った。
「狩場への入口を開きます」
氷室の凛とした声が路地裏に響き、突如私達の足元に魔法陣が現れる。その魔法陣に吸い込まれるようにして、その場から抹消。構成されたのは人っ子一人いない、“元居た場”。
場が変わろうがやる事は変わらない。敵が地面に伏せている間、早急に金具を外しにかかる。
“此方の世界”でも呑気にやっていればその時点で全てが終わる。つまり殺される。私は楽器ケース内の鋼性十字架を出すと腰を屈め、臨戦態勢になった。
氷室の商売道具は私のに比べ、出すまでに遥かに時間がかかる。それまでに時間を稼がなくては。
成功すれば生き、失敗すれば死ぬ。こんな所で気を抜いたら楽に死ぬ事なんざ許されない。体を食いちぎられ、頭蓋を叩きられる。つまり無様な死に様を曝す事となる。