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黒髪のリカントロープは口を閉じたままだ。性格は……ルー・ガルーとは真反対と言った所……。寡黙で表情に変化がない。
人形に飽きたのか狼の姿に戻り、地に伏せる。頭部を撫でろと頭を下げてきた。
黙って二本の腕を忙しなく動かしながら三頭の頭を撫でてやる。
「紅葉様もいらしたのですね」
べったりと後ろから肩に手を回し、貼りつく。覇気のない声で笑っていた。直感的にカーミラだろうと悟ってしまう。
「カーミラ、離れて。硝吸鎌に愚痴を零されるのは私なんだから」
「え~」
とか言いながらも離れてくれた。ちなみに引き剥がすポイントは『硝吸鎌』という単語にある。例え私が『うざったいから離れて』と言った所でのらりくらりと会話をかわされ、なんだかんだで引っ付いている。
非常ーにうざったい。
にしても……あいつ何したんだろう……?
「死神様に唾付けされた者に手を出すとろくな事がありませんわ」
くるくると回りながら拗ねたような目をする。軽やかに地に足を付くとルー・ガルーの毛を弄り始めた。
その様を見ていると二の腕と首にひんやりとした感触を覚える。どうやら首にラミアー、二の腕にノスフェラトゥがくっ付いているらしい。
「ようこそ紅葉様」
「今回はどんなお召し物が良いですか?」
女吸血鬼達に限った事ではないが、どういう訳だか私を着せ替え人形にするのが好きらしい。
「だからくっつくな」
「え~」
「え~」
「ほら、持ち場に戻る。空間をトジるよ」
人狼が毛を震わせ、ヴァンプ達がふてくされる。人外の皆さん、撤収。映画ならエンドロールが流れているところだろう。
「こっ、今度こそは和風系ゴスロリを着させてみせますから!!」
ラミアー……。負け犬の遠吠えにしか聞こえません。
全員が舞台から去った所で空間が崩れ始める。床の消失と、瓦礫の落下。かと思えば元の事務所前に戻っていた。
「お疲れ様」
「はい……」
もう一度私は鋼に頬を押し付けた。その様子を見てクスクス笑われる。
全く、何がおかしいのだろう。
「硝吸鎌、紅葉の事大好きだから……。滅籍とまた喧嘩してるかも」
冗談がキツい。硝吸鎌が私に抱いている感情は“好き”という物とは何だか違う気がするし、そもそも喧嘩なんて暑苦しい事はしない。馬鹿らしい……。