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「滅籍の眷属共。餌の時間だ」
嘲笑うかの如く言い放つと重厚な扉が開け放たれる。其処から現れたのは硝吸鎌とよく似た目をし、白いマーメイドドレスを身にまとった三人の美女達だった。彼女らはボロボロの包帯らしきもので口を覆い、黒々とした髪をくねらせている。
三人共、白い腕を死体に巻き付けると口元の包帯を引き下げる。真珠色の犬歯と石榴のような唇が項に張り付き、滲んだ血を啜る。
「ひっ……」
後は全て女ヴァンプ共に任せよう。大丈夫、何も見なくてもいい。後はちゃんと片付けてくれる。
今まで緊迫していたお陰で感じなかった左腕の痛みが再来する。痛い。痛い。痛い。凄く痛い。
不意にどさり、と何か倒れる音がした。血を飲み干した吸血鬼達が死体を捨て、所長にべったりと侍る。
「人狼、残骸の処理」
次に現れたのは黒、茶、灰色の狼達だった。またも死体に飛びつき、血肉を、骨を噛み砕く。目を閉じていたって分かる。彼等が今何をしているのか。
悲惨な音が止み、うっすらと目を開けると口を鮮血で染め上げた人狼達が私にぽてぽてと近づいてくる。
「せめて口元の血をどうにかして……」
震え声で懇願すると『細かいな……』と呆れ声が脳裏に響く。
人狼は舌先で血を拭い、太ももに擦りよる。欠損した腕を見て、舌先を擦り付ける。血液が止まり、皮膚が再生される。
「これで良いだろう」
「……有り難う」
人形に変化したリュカントロポスは茶髪を掻き、いい加減戦場に慣れろと目で訴えてくる。他の人狼も人形に変化し、同じような燕尾服を纏っていた。
どうやらリュカントロポスが回復させてくれたお陰で自分達は不要だと悟ったのだろう。
「最近お呼びになられなくて退屈でしたわ」
「えぇ、本当に」
「塔のフィールドばかり扱うのですもの」
カーミラとノスフェラトゥ、ラミアーが口々言い合う。宙を舞い、所長の首に腕を回して甘えている。
「ご苦労様。カーミラ、ノスフェラトゥ、ラミアー。城とか教会の方が体力消耗するからね」
主人の前に跪いていた人狼達が労いの言葉を待っている。しかし何時まで経ってもヴァンプが話しを続けるため、人狼に目が向かない。
何だか可哀想に思えて来たので、近寄って喉元を撫でてやる。とりあえず礼も込めてリュカントロポスから。次に黒髪のリカントロープと灰髪のルー・ガルーを指先で弄る。
大の青年が目を細め、うっとりしている。やはり狼なのだな……と思ってしまう。
「今わんこみたいって思ったでしょ?」
「ルー・ガルー。正確には狼よ」
恐らく三人の中では最もフットワークが軽いであろう灰色がムスッとした顔で一言。