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アンデッド ─undead─ 一部  作者: 秋暁秋季
第三体 擦れ違う、二人
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1 向き合いたい

 硝級鎌と分かれた後、私は速やかに帰宅した。二日目ともなれば塊が居ない事に其処まで落ち込む事も無かった。精々深く深呼吸をしたぐらい。しかし何時までもこの時間が続くとなると堪えてしまう…………。大丈夫、きっかけは転がっている。

 リビングに向かうと案の定夕飯が用意されていた。


  ──今日は鰤と大根の煮付けです。朝御飯にもなるように多めに作って起きました。残りは鍋に入ってるよヾ(≧∇≦)──


 ……いい加減甘えてもいられない。私も置き手紙を残す事にしよう。端的に思った事だけを綴ってゆく。まぁそうなると案の定こうなる訳で。


 ──ご飯くらい一人で作れる。わざわざ戻るくらいなら私とちゃんと会話して。──


 この内容はまずいだろうか……? 特に“会話して”の部分。でも間違った事は一切書いていないし、ただ黙って待っているのも嫌だった。自覚こそしていないが実はせっかちなのかも知れない。

 テーブルの上に肘を着いてぐりぐりと束ねた髪をいじくり回す。結局直す事はせず、そのままテーブルに置くことにしておいた。

 時計を見てみると六十半を迎えようとしている。夕食にでもするとしよう。私はテーブルの上に置かれたラップ掛けの鰤大根をレンジまで持って行く。

 この二日間で想像以上の働き振りをしてくれているレンジ……。普段もそれなりに使っているが、今日ほどその存在に感謝した事は無かった。レンジに感謝するという点ではこういった事が起きても良いのかも知れない。無論、私はごめんである。

 鰤大根を温め直している間、硝級鎌の様子について考える事にした。

 今日の彼奴はなんだか辛そうだった。何時もにも増して私を離そうとはせず、ただ長い時を包容に費やしていた。まるで、私が離れて行くのを拒むように……。

 そんな事、有りはしないのに……。


         ──チンっ──


 おっ、出来たようだ。いそいそと向かい、レンジを開けるとふんわりとした懐かしい匂いがした。ラップに包まれていながらも香りはきちんと伝わって来る。流石にこれを素手で取ると火傷しそうなので、先に米を盛る。しゃもじと茶碗を片手に炊飯ジャーを開くと、ほかほかと湯気が出て来た。勿論冷たい湯気などあるはずもなく、直撃した手が暑い。軽く手を振ってから盛る。

 まずは御飯をテーブルの上に置き、次に鰤大根を持ってくる。タオルを二度三度畳んでから、そっと両手で持つ。それでも熱が伝わって来て熱い……。でも慎重に、転ばないように持って行ってからラップを捲った。

 本日の夕食、ご飯と鰤大根の煮付け。

 黙って咀嚼し、飲み込む。大根は噛むほどにダシが出るし、ぶつ切りにされた鰤は良く其れを吸っている。美味い。これを目分量で行う塊にはある意味圧倒される。

 塊は聴覚と視覚を除いた器官が遮断されている。つまり感覚だけでなく、味覚も無いのだ。

 最初は食べられものでは無かった為に自分で作ろうと決心した矢先、『目分量でやるから教えてくれない?』と言い出したのだ。まぁ『作る過程のついでだと思えば……』と思って教えたのだが、今では私よりも上手く作る。恐ろしい奴……。

 そんな事を考えているうちに、残るは大根一欠片となった。其れを箸で摘み、口の中で砕く。最後まで美味しく頂きました。

 食器を洗い終えて、風呂にも入って、もう寝るだけとなった。明日は学校な為に、早起きしなければならないのだ……。あぁだるい……。さっさと床に着こう。

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