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「それ、愚問なんだけど。私が使わなくて誰が使うの?」
「そう。俺の可愛い“モノ”と変えてあげても良いと思ったんだけどね」
可愛いものとは言うまでもなく白時の事だ。白時は良い相談役になるから、俺に言い難いことでも話せると思う。話す事によって解決する事も多いし、良い考えだと思ったのだけど……。駄目だったか。
そして俺は出来るだけ不機嫌そうな表情を作り、白時が言っていた事をそのまま繰り返す。
「それに硝吸鎌の事嫌いだし、食えない性格とか本当に有り得ないし、全世界のもの馬鹿にしてるし」
硝級鎌は俺にとっての恩人に当たる存在だと思う。でも俺を救ったのは紅葉ちゃんに懇願されたからであり、自分の意志は雀の涙程も有りはしない。寧ろ人を食った微笑みのままに見捨てて居ただろう。
だから『嫌い』と言うことが出来る。例え感情があったとしても、硝級鎌に感謝なんてしないと思う。
前にも言ったと思うけれど、今俺が此処に存在出来るのは紅葉ちゃんのお陰なのだ。
「真似たのね……」
「うん!!」
秋晴れの笑顔を全面に押し出し、白時に向ける。白時は出来の悪い教え子を見るような顔をして溜息を付いた。
あれ、また間違えたのかな? だって紅葉ちゃんが居なければ、
間違い無くあの硝級鎌は俺を見捨てていたんだよ? だから感謝の気持ちがあったとしても、紅葉ちゃんに向けるべきだと思うのだけど。
俺が考え込んでいるのを一瞥し、白時は窓の方を向く。夕日は出ていないが、“黄昏る”って感じ。
「話を戻そ……。良き相談役として見てくれているのは……嬉しいと思う。でも、だからこそ私は塊にぃの相棒で居たいと思う」
白時は向き直ると頬を膨らませ、じっと此方を見る。また眉間に皺が寄っているし、怒っているのかも知れない。悪気は無かったから許して欲しいなぁ……。
俺が後ろ髪をかき上げるようにして撫でると、白時は子供を見る親のように少しだけ笑った。
「怒って無いよ。紅葉ちゃんの事を考えて……考えて……導き出した答えなんでしょう? じゃあ、いいよ。許してあげる。でもこれからはそんな事言うの禁止」
「有り難う。気を付けるよ」
白時は得意げに顎を上げて俺の手を掴む。そのまま自分の頭上に持って行こうとする。どうやら頭を撫でて欲しいらしい。俺は白時の望むままに撫でてやった。
ねぇ、紅葉ちゃん。俺の行動は全部全部、紅葉ちゃんの笑顔の為なんだよ。明るく振る舞うのも、語り掛けるのも、全部全部──紅葉ちゃんの為。
──カンカン──
誰かが階段を登って来る。紅葉ちゃんかも知れない。
白時と話す事によって紛らわしていたモヤモヤしたものは、紅葉ちゃんと会ったらまた再発するかも知れない。そしてこのモヤモヤを携えたまま会ったら、紅葉ちゃんを殺してしまうかも知れない。
──笑顔を見ることもなく──
“逃げろ”そう本能が五月蠅く警告する。
「此処は任せて。塊にぃは二階から飛び降りて逃げて」
「有り難う」
白時は自らの聖遺物をケースに戻し、その細っこい両腕でロッカーに戻そうとしている所だった。あんな幼女の何処にそんな力があるのか分からないけれど、今は助かる。
「じゃあ、またね」
「うん」
俺はクレセント状の鍵を指で弾き、二階から勢い良く飛び降りた。