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そうなのか……相変わらず人間って難しい……。訳の分からない感情に捕らわれて、悩まされて……。
でもね、紅葉ちゃんに落ち度なんて何処にも無いんだよ。『捨てないで』って言ったのだって、軽い冗談のつもりだったのに……。
俺は肘掛けに腕を乗せると考え込んだ。このままじゃ死ぬことの無い寿命があったって無駄なのかも知れない。
「寿命……かぁ。そう言えば紅葉ちゃんに白時と硝級鎌を交換する提案をしたことがあったなぁ……」
「ちょっと塊にぃ!! 浮気!?」
白時が突然立ち上がり、眉間に皺を寄せる。あぁ怒ってる。悪いことでも言ったのかな……。
きょとんとした顔で白時を見ていると、呆れたと言わんばかりの溜息を落とし、もう一度座った。
「塊にぃに感情が無いの忘れてた。でもさ、組むのを止めるって言うからには、私が納得出来るだけの“紅葉ちん絡み”の訳が有るんだよね……?」
白時はにっこりと微笑むと、“紅葉ちゃん絡み”の所を強調して問い掛けてきた。こめかみに筋がくっきりと浮き出ているけれど、笑顔……なんだよなぁ……。この場合、喜んでいるのか怒っているのか分かり難い……。
「怒ってんだよ!!」
「そうなの?」
「だからさっさと説明しなさいっ!!」
白時は目つきを吊り上げて膝を蹴っ飛ばす。勿論俺には通じない。痛くも痒くも無い。視覚に入らなければ当たったかさえ分からない。
「其れは紅葉ちゃんが朝御飯を食べている時だったんだけど……」
「まだ、硝級鎌を使い続けるの?」
紅葉ちゃんは時が止まったように動かなくなった。目を見開いて凄く驚いたような表情をしている。
俺がこんな事を言ったのには訳がある。紅葉ちゃんに笑って欲しいけれど、それが何時になるか分からない。俺は永久とも言っていい命があるけれど、紅葉ちゃんはそうじゃない。俺より先に死んでしまう事だって有り得るだろう。そしてそれをより促進させているのは硝級鎌だ。
此処でふと考える。俺が硝級鎌と契約すれば良いのではないか。俺には永久の命があるし、紅葉ちゃんが短命になることもない。良い考えかも。
しかし紅葉ちゃんは俺を睨むように見ると、ぶっきらぼうに言い放った。