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俺は黙って考える。そう言った状況に追い込まれた時の事を想像する。
紅葉ちゃんが傷付いているのを見ても何も思わないけれど、モヤモヤはする。どす黒いモヤモヤ。其れは決して良いものじゃなく、俺の心臓を蝕んで来るのだ。
これは──人間の言う“苦しい”って感情なのかな?
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
白時は黙って顎を上げて得意げな表情をした。俺に感情や思想を教えるのが楽しい……? らしい。解釈はこれで会っているかな?
「合ってるよ。塊にぃ、自信持ちなよ」
白時が目を三日月にして抱き付いて来る。子供がするみたいに頬まで擦り寄せ、甘えて来る。
『自信を持て』と言われた所で、迂闊に表情を作る訳にはいかない。間違って疑われでもしたら紅葉ちゃんが困ってしまう。困ってしまったら、きっと俺のモヤモヤは一瞬にして増幅するだろう。
だから出来るだけ慎重に。
「塊にぃは案外思慮深いのかもね。にしても塊にぃが少しでも多くの感情を学んでくれる事が、先生はとても嬉しいですっ」
見た目は幼女なのに、こうしていると俺よりも年上のようだ。実際、俺よりも長い時を経て多くの事を学んで来たのだろう。だから助かる。感情のない俺に、理詰めでも良いから“感情”を教えてくれる事が。
「でもね、その夜紅葉ちゃん倒れちゃったんだ」
「何で!? 致命傷負ってたっけ!?」
白時が胸元から離れ、目を見開いた状態で俺を見る。相当に驚いているようだ。
対して俺は冷静に返事をした。
「『俺を──捨てないでね』って言ったの」
紅葉ちゃんが笑っているところが見てみたいから。だってそれを見たら心が温かくなると思うから。
罰を与えてあげる、他の苦しい事から守ってあげる。だから、利用価値はあるから、捨てないで──。
そう思って言った『捨てないで』なのに、何故か紅葉ちゃんは倒れてしまった。そのままぴくりともうごかない為に、ベッドまで運ぶ事になったのだけど。
「あれ、白時の言う通り逆効果だったのかなぁ」
「間違い無く逆効果。紅葉ちゃんは塊にぃを生かした事に罪悪感がある。だから最期まで一緒に居るつもりだったんじゃない? でもその塊にぃに『捨てないで』なんて言われたら、自分に落ち度が合ったと考えたんだよ。相手に“捨てられる”と思わせる程の」