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アンデッド ─undead─ 一部  作者: 秋暁秋季
第三体 擦れ違う、二人
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2

 あぁいけない。言い訳になっている。

「紅葉ちゃん、俺を助る為に硝級鎌と見えざる目を失う約束をしたでしょ?」

「あぁ。そうだな」

「それ、もう少しだと思う」

 その言葉を聞いた途端、常に冷静な所長の目が僅かに見開いた。まぁそういうものか。なんせ死体狩りの要とも言えるべきものを、もうすぐ失うと言ったのだから。

 所長は青汁でも飲んだ時のように苦々しい顔になって、俺に問いかけて来た。

「どうして?」

「分からない。けど何となくそんな気がした」

 俺は体をソファに預けて両手を後ろに組んだ。『それ以上は聞かないで欲しい』という意思表示だ。

 だって本当に、何となくだから。何の理論も理屈もへったくれも有りはしなかった。だから“予感”なんじゃないか。

 あぁ、そうそう。あと質問が一つ。

「あとさ、所長」

「うん?」

「紅葉ちゃんが苦しそうなのは、見えざる目を失ってしまうからなのかな?」

 出来るだけ明るく問いかける。

 何でも無いときでも笑顔の練習は必要だ。だって人間に近付く程紅葉ちゃんが安心するのが分かるから。安心すると少しだけ心が温かくなるような気がするから。でもほんの少しの違いだから分からない。もっともっと大きな変化を──。


  そう。例えば紅葉ちゃんが笑ってくれるとか──。


 紅葉ちゃんが笑ってくれたからと言って、心が温かくなるとは限らない。だからものは試し。でも賭ける価値はあると思う。

 俺の記憶は死体に成り掛けの時から始まっている。逆に言えばそれ以前の記憶はぼっこりと抜け落ちている。だから表情の作り方が分からない。分からないから練習する。紅葉ちゃんを安心させる為に。笑って貰う為に。

 しかし俺の表情に反して所長は酷く苦しそうな顔をしていた。とっても言い難そう。ドラマとかで見たことあるけど、人が死んじゃった時みたい。

「いいや……。紅葉はね、君を助けた事をずっと悔やんでいるんだ」

「どうして?」

 俺は大きく首を傾けた。それを見て所長は瞼を黙って伏せる。俺から目を背けるように。

 ただ疑問だった。生きる楽しみが分からないとはいえ、今此処に居られるのは、紅葉ちゃんが必死になって硝級鎌に願った御陰だ。其れについて何も思いはしないけれど、人間の言う“感謝する”という言葉が一番しっくり来る気がする。少なくとも“憎い”といった感情とは何となく違う……気がする……。

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