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現実世界に現れる時は確か何も付けていなかったはずだ。一度記憶を漁る。しかし、何の装飾もないゴムでボルドーの髪を束ねている罅荊の姿しか思い浮かばない。
疑問に思って凝視していると、居たたまれなくなったのか不機嫌そうな態度をとる。
「私が何処で何を身に付けようと、私の勝手でしょう?」
「出てくる時は外してるよね」
「煩い」
「そっ、ごめんなさいね。リボンに対しては思い入れがあるから気になっただけ」
私が常に身に付けているリボンは、亡き母が付けてくれたものだった。ある程度髪が長くなってきて、正直邪魔に思っていた時、母が持って来てくれてのだ。
──このリボン、紅葉にとっても良く似合うわよ。
そう笑って私の髪を高い位置に結い、リボンを通してくれた。
これがきっかけとなり、母が髪を結う際には必ずこのリボンを通してくれるようになった。言わば私にとってこの赤リボンは母の忘れ形見である。そして約束や決意を具現化したものでもある。
だからもしかしたら、罅荊にもそう言った思惑があるのではないかと考えたのだ。まぁ、無いのが普通であろうが。
そう思って髪を梳いていると、罅荊は良く通る舌打ちをして返事を返してくれた。
「閏日から頂いたんです。全く……口煩い小娘が居ると落ち着いて茶も飲めない」
不機嫌そうだ。何時も一を見下し、小馬鹿にするような奴が、ペースを乱されているのを見ると心がすっとする。性格が悪いと思いつつ、人間の性という事にしておいて欲しい。
「全く……。下らない事を考える前に、私に頼らないで済むような自己防衛の仕方でも考えて下さい」
此処でふと思い出した事がある。
──言い方キツいけど、本人の思想が結構絡んでいるから、悪気は無いのよ──
あの意味は一体何なのか。私に厳しく当たるのは、その思想が原因なのか。気になる。
「貴方の思想が聞きたいの」
「思想?」
「そう。閏日さんが言ってた」
罅荊を一瞥すると長い脚を組み、ボルドーの髪をかき上げている所だった。質問に応えるのを面倒臭がっているように思える。
別に言いたくないなら構わないのだけど、意味もなくなじられるのはやはり嫌だから。