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対して罅荊の方は僅かに眉をしかめ、苛立ったように此方を睨む。
「私とて、自分の非を認める事もあります。馬鹿にしないで頂きたい」
罅荊は鼻を鳴らすとそっぽを向いた。
なる程、子供でも非を認めれば詫びるのに、それを自分がしないのはプライドが許さないのか。プライドが高い人間程自分の非を認めたがらないが、罅荊の場合はある意味逆を言っている。常識的なプライドがベースにあって、その上に自らのプライドがある。嫌な奴だと思っていたが、見習うべき点はきちんと見習おう。
其処でふと本筋を思い出す。まだ礼を言ってなかった。
「助けてくれて有り難う。礼を言い忘れたから言いに来たの。幾らムカつく奴だとしても、こういう事はちゃんとしなければならないでしょう?
最後の嫌みは最早挨拶代わり。此奴が嫌みを仕掛けて来ると言うのなら、此方も仕掛けないと始まらない。ある意味で喧嘩仲間である。
「別に。閏日が煩かっただけです。にしても……落ちこぼれと言えど、礼儀は身に付いているのですね」
感心したように目を開き、顎を上げた。一言余計である。
おっと、紅茶が冷めてしまう。早々に頂くとしよう。
カップを持ち上げて口元に近付ける。芳醇な香りが鼻一杯に広がる。一口啜ると雑味の無い、滑らかな味が舌を通過していった。だが、何と言うのだろう……紅茶特有のほろりと苦い味がしっとりと舌を濡らすのだ。
そうやって紅茶を堪能していると、罅荊と目が合った。何かを考えるように顎を撫でるとまた、足早に部屋を後にした。
部屋の主は早々と戻って来た。盆に乗せられているのは角砂糖の入った小瓶と、輪切りレモンの入った小瓶、白い陶器のミルクポット、それから茶菓子の乗った皿だ。彼はそれらを自らの手元に置くと、もう一度紅茶を啜った。
「使わないの?」
「邪道です」
じゃあ何故持ってきた……!! 必要が無いのなら立つ事も無いだろう。だが折角だし、砂糖ぐらいは入れようかな……。
そう思って手を伸ばすと角砂糖の小瓶を私の元に置いた。次にテーブルの中心に茶菓子の皿を置く。
「この苦さが良いのではありませんか。この良さをみすみす潰す貴方の感性が理解出来ません」
どうやら思考の断片を読み取ったらしい。ふんっ、自分の好みを押し付け無いで欲しい。そう思って罅荊を睨むと、ふと違和感の理由に気が付いた。
「貴方、リボンなんか付けていた?」
罅荊の髪に注目すると、緑のリボンが巻き付いていた。ワインレッドに良く栄えるような純粋な緑色……。