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アンデッド ─undead─ 一部  作者: 秋暁秋季
第三体 擦れ違う、二人
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1 礼

 足早に本屋を後にして、事務所へと向かう。ショッピングモールからも遠くは無いはず……迷わないければ。でも一度家に戻って再スタートを切った方が余計な時間を掛けなくて済む気がする。“急がば回れ”と言う奴だ。

 そんなこんなで、私は来た時に使った細道を逆戻りしていた。誰も居ないし、何もない。あるのは黒いコンクリの道と其れを作り出している壁達だけ。その間をすり抜けて自宅へと向かう。

 走ればすぐだった。対した時間も掛けていない。此処まで来たら公園を通って数分歩けば着くと思う。壁に囲われる事のないやや開けた道を歩きながら、ぼんやりと上を向いてみる。

 澄み切った、青いインキをぶちまけたような空だった。屋根や電信柱に目を向けると烏や雀が留まって毛繕いをしている。穏やかな日曜日、正午を迎えるやや少し前に事務所前に到着した。

 此処で一度深呼吸する。助けて貰った礼をするのに、目つきが吊り上がっていたら悪いだろう。其れが例え挨拶代わりに嫌味や皮肉を飛ばす、心底ムカつく奴だとしても。

 精神を大いに落ち着けてから錆び付いた階段を上る。常に不安になるのだが、朽ちて足場が崩れる事はないだろうか……? まっ、その時はその時か。  

「失礼します……」

 頂上に無事辿り着くと、ドアノブを捻って数センチ隙間を開ける。隙間から中を覗いたが誰も居なかった。皆死体を狩っているか、仕事に出ているのかも知れない。だが不思議な事に窓が全開になっていて、風が入り込んでいる。不注意な……。誰もこんなボロ臭い事務所に盗みに出るとは思えないが、窓くらいしっかり締めて欲しいものだ。

 罅荊に会う前に窓を閉じ、閏日さん専用(?)のロッカーを開く。正直使っているかどうかさえ不明なのだけど、使っているならば罅荊が中に入っている筈だ。

 御名答。屍刺鞭が円形状に巻かれてロッカーの底に置かれていた。手を伸ばし、そっと撫で上げる。

「罅荊、話があるの」

 途端の浮遊感、私はその場に倒れ伏す。

 目を開くと洋風の書斎のような所に突っ立っていた。

 横長の空間に、余分な物を取っ払ったようなアンティーク机。上には御丁寧に羽ペンが乗っている。視線を左に移す。焦げ茶の猫脚を持つ硝子テーブル、向かい合わせとなるように二人掛けのソファが設置されていた。壁一面が本棚になっていて、書物の背表紙が壁と化している。そして足下にはふかふかした鮮血の絨毯が引かれている。其の空間にしっくりくるように一人の男が此方を見据えていた。罅荊である。でも……何だか何もと違う……気がする。

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