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アンデッド ─undead─ 一部  作者: 秋暁秋季
第一体 怠惰少女 
16/178

1 死体多発中

「紅葉、来てくれて助かるよ」

「……おはようございます」

 建て替えられる事もなく、やたらに古臭い事務所の中で、彼は事務椅子に腰掛けていた。

 彼は両肘をつき、指を組み、笑顔を浮かべる。

「で? 死体なんでしょう?」

「うん。まぁ、それと……」

 そう言ってロッカーから鋼性の十字を出す。普段は刃の部分の無い、ただの鋼の塊。形を潜め、戦闘時にしか本性を表さない“彼”。私の大切な契約者だ。

「硝吸鎌が寂しがっていたからねぇ」

「昨日の今日ですよ?」

 そう言って鋼の塊を投げつける。眼鏡越しの凛とした眼が印象的だった。

 私は重々しい塊を抱きしめ、頬を擦り寄せる。すると幻影が脳裏を掠めた。

 長い黒髪に、英国紳士の服を纏い、人を食った眼で口角を上げる。

「来てくれたのか」

「呼び出し命令があったから」

 彼が悪い訳でも無いのに八つ当たりしてしまう。そっぽを向くと長い指先が頬を撫でる。

「此方を向け。汝が向かねばつまらない」

 瞳だけを“硝吸鎌”に向けると笑みがますます濃くなった。

 これは硝吸鎌の精神体に過ぎない。精神体というのは聖遺物が持つ魂のようなもので、それぞれ人型を保っている。前に硝吸鎌に『九十九神のようなものか?』と尋ねたら、『根本的に間違っている』と否定されてしまった。

 そんな有耶無耶な魂の塊だが、触られた感触はリアル……なのだ。人と違うのは冷たいこと。生暖かさがない。故に触られても拒否反応を起こさない。

「汝は私に甘いからなぁ……」

 私の両頬を指先で抑えられ、無理矢理固定させられる。そうやって暫く見つめ合う。

 大して甘い雰囲気にもならず、物欲しそうな彼の眼が私の眼球に収まる。

 此奴が私に向けて来るのは“好意”と言うよりも“執着”。自分のものが奪われることを拒む、只の独占欲に過ぎない。

「あぁ……本当に欲しくなる……」

「首が痛いから離して」

 私の唇を愛おしそうに撫でる親指を引き剥がし、睨み付ける。どうせ直ぐに手に入るのに、どうしてこうもせっかちなのか。

 彼も私の気持ちを見切り、俯いてくつくつと笑う。長い髪が微かに震えていた。

「汝は、他の者には殺めさせない。例え契約が枷となったとしても、汝を死後奪うのは私の役目だ」

「言わなくても分かってる。貴方が欲しいのは私の命、魂、目、腕、脚……それら全てだもの。取られる前に自分で奪う」

 『あぁ、勿論だとも』。聞こえぬ声と共に瞼が閉ざされる。辺りの闇が消えゆき、元あった古臭い事務所に変わる。

「硝吸鎌と話せた?」

「はい。何時ものように私の生に執着してましたよ」

 『硝吸鎌ってヤンデレっぽいとこあるよね』と誰かが言っていた。何の略語かと尋ねたときは確か……『精神的に病みながらも愛する』と返された気がした。でも硝吸鎌は私を愛してはいないため、これには当てはまらない。

 所長は掌の上に分厚い書物を乗せていた。革張りの表紙に金で十字が施されている。聖書のようにも見える。

「『滅籍』も最近私にツッコミを飛ばすようになってしまって……本当に嘆かわしい……」

「シスターにツッコミを飛ばさせている所長が悪いと思います」

 黙って書物を受け取り、そっと表紙を払う。硝吸鎌と出会う予兆のような雰囲気が漂ってきた。

「おはようございます。紅葉さん」

「おはよう、シスター」

 金髪の緩やかにうねった髪の美人が優雅に微笑む。漆黒の修道服を身にまとい、肩に掛かる髪を払いのける。

「…………」

やっと紅葉と同じくらい大切なキーキャラ、『硝吸鎌(ショウキュウガマ)』が登場しました。

実は結構気に入ってます。

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