1 晩御飯について
玄関に鍵を掛けて、自分の部屋に行く。扉を開けた途端に足早にベッドに直行して、勢いよくダイブした。スプリングは私の体重を受けて大きく軋み、ぎしぎしと嫌な音を立ててくる。
もう、このまま眠ってしまおうかな……。明日も休みなのだし、一晩中寝ていても何ら支障はない。
そう思って両目を閉ざす。だが直ぐに開いてしまう。ごろごろと寝転がるものの、結局は起き上がって携帯を操作する。着信履歴は無いし、秋本先生のSNSにでも繋いでみよう。
──明日、岩悪が発売です(*´∀`) 今回は何と!! 特性ブロマイド付き。岩波先生(白衣)+美しき悪魔たち(岩悪劇場版衣装)verです!! 常々御世話様ですっ!!──
そうだ、すっかり忘れていたが明日は岩悪の発売日だ。それもブロマイド付き。買いに行かねば。
「ねぇ……か」
そうだ……塊は居ないのだった。全く……帰ってきたばかりの時に確認したじゃないか。何を馬鹿な事をしているのだろう……。
またも泣きそうになって首を振る。何時までもこんな状態じゃ駄目だ。塊が逃げた理由は分からないけれど、だからと言って気が動転してどうする。塊から寄り添ってくれるまで、待つと決めたじゃないか。
頬をつねり、気持ちを切り替える。取り敢えず、明日は気分転換に岩悪を買いに行こう。そしたら閏日さんと罅荊に礼を言いに行こう。偶然塊に会って、逃げ出されてしまうかもしれないけれど、もう泣かない。大丈夫、まだ終わった訳じゃない。始まったばかりのだ。
という訳で夕食の準備に取り掛かる事にした。冷蔵庫の中身を漁れば献立の一つや二つ、思い付くはずだ。
部屋を後にして、リビングに着くとテーブルの上に一枚の紙切れが置いてあるのに気が付いた。
──紅葉ちゃん、今日は逃げ出してごめんなさい。でも今会うことは出来ません。
夕飯は作っておきました。冷蔵庫の中から取り出してチンして下さい。──
「何なんだよ……これ……」
自分でも驚く程に低い声が出た。地の底から這い出た化け物のようだ。
会うつもりは無いけれど、作り置きした料理は食わせると……。もし塊が目の前に居たら、私はこう叫ぶだろう。
「てめぇ、どんな神経してやがんだよ!! 意味分かんねぇよ!!」
一人マンションの一室、しんと静まり返ったリビングで、ドスの効いた声、しかも口悪く叫ぶ女子高生……痛い以外の何物でもない。ふざけてやがる。