1 心配メール
「転機……かぁ」
取り敢えず家に戻る事にした。あのまま事務所に居ても何も無いし、疲れた為に早く休みたかったのだ。
一人でふらふらと道を歩いていると、不意に携帯に着信があった。二通来ている。誰だろ。
指先で操作して名前を見ると、所長と閏日さんからだった。先ずは所長から。
──具合は良くなった? さっきは寝ている最中に電話してごめん。でもお陰で被害は最小に留まって、何とかなった……。感謝感謝。──
被害……? 私が居ない間に何があった……? 電話……という事は硝級鎌の事か? 確かに怒らせたとは耳にしたが、彼奴一体何をしたのだろう……。シスターの眷属の事といい、謎が多くて困る。
次に閏日さん。どうせ、なじって欲しい。蹴って欲しい。踏んで欲しい……と言った趣味全開の内容でありそうなのだが……。というか閏日さんのメールって大半がそうだから……。
──紅葉ちゃん、怪我大丈夫? 塊君が担ぎ込んで来たからびっくりしたよ。でも手当てが間に合って良かった。
全快したら、罅荊とも仲良くしてあげてね。言い方キツいけど、本人の思想が結構絡んでいるから、悪気は無いのよ。──
前半はまともだ。そりゃあもう常人と言っても過言ではない。しかし何故後半に罅荊の話を入れた? 悪気が無いのは嘘だろう、絶対に。というか思想ってなんだ。聞いたこともない。でも……手当てしてくれたのは閏日さんと罅荊なのか。礼を言わねば。
しかしながら謎なメールが二通……まともなメールと言えば氷室くらいか……。……加害妄想なところを覗けば……だけれど。
本当に何処か飛び抜けていて、癖の強い集団だ。だがそうでなければやっていけないのだろう。
思わず頬が緩みそうになって、慌てて抑える。いけない、油断した。塊が感情を失ってからは感情を表に出さないと決めているのだ。彼奴が心から笑えないのに、私に笑う権利なんてない。
此処で塊が死体になりかけていた公園へと差し掛かる。子供達が賑やかに遊んでいて、とてもあんな悲惨な事件が起きたとは思えない。本当なら、私もそんな平和の一部となって過ごしていたのだろう。
家ももうすぐだ。早く帰ろう。
足早に歩を進めて家に付くと、案の定誰も居なかった。扉を開いた時、冷気とは違った冷たさが頬を撫でさする。言うなれば“寂しさ”というものだろう。塊が居ないだけでこんなにも殺風景に成り下がるのか……。
『紅葉ちゃん、お帰り』『今日の御飯はねー、炒飯にしようと思うんだ』『今丁度作ってるの』
記憶の中の塊はそうやってへらへら笑って、私の手を握ってきた。体温は一切感じさせないのに、何処か温もりを感じずにはいられない……。あぁ……居なくなって初めて気が付いた……こんなにも私は彼奴に依存していたのだ。彼奴が居なければ何も出来なく成る程に。
また涙がこぼれそうになったので、急いで堪えた。ずっと死体にさせてしまった事を後悔しているはずなのに、何時の間にか喜んでいる自分がいる。それが許せない……。