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俺は白時に言われた通り、つば広帽をとると軽く手を乗せた。相手の様子を見ながら慎重に。痛がっていないかどうか。
「痛くない?」
「平気だよ。それより相談があるんでしょう? 紅葉ちゃんの事で」
白時の真剣な眼差しに黙って頷く。今の俺は恐らく、かなりまずい状態なのだと思う。死体を見ると無性に殺したい。殺さずにはいられない。それも“物凄くえげつない”方法で。
八つ当たり。という言葉が脳裏に浮かんだ。このモヤモヤを晴らしたいが為に、死体を要領の悪い、残酷な方法で殺してしまうだろう。しかし現状から察するに、モヤモヤが晴れることは無いと思う。
この酷いモヤモヤは紅葉ちゃんが瀕死の状態から始まった。紅葉ちゃん笑ってくれると思って助けたら怒られて……。全ての始まりは紅葉ちゃんなのだ。今までずっと紅葉ちゃんが笑ってくれる事に固執していた。でも逆に、逆に、逆に──。
紅葉ちゃんを殺せば、楽になるのかな──?
「塊にぃ、駄目だよ。そんな事したらモヤモヤなんて一生晴れないよ」
白時の鋭い眼光が俺を射抜いた。天敵を見つけたような反応。
殺したいと一瞬でも考えたが、それが不可能である事は直感的に分かっている。きっと紅葉ちゃんを殺したら今以上にモヤモヤする。自分の胸を裂いて、掻き毟りたい程に。それは理性というよりも本能に近かった。
例えば今正に自らの首を絞めて自殺を計ろうとする人間がいる。理性的に首を拘束し、酸素を遮断する。しかしそれを本能が拒み、手を緩めて酸素の供給を再開する。
俺に言わせれば“殺す”というのが理性、“殺せない”のが本能と言ったところ。やっぱり紅葉ちゃんに笑顔になって貰うしかないのか……。
見上げてくる白時の視線は緩まる事を知らない。むしろ研ぎ澄まされた刃の輝きを保っていた。
「困ったなぁ…………」
「……きっかけがあるまで、会わない方がいいと思う」
「きっかけ?」
「そう。紅葉ちゃん以外で、モヤモヤが少しでも晴れるきっかけが無いと」
そうかも知れない。このままの状態で会ったところで何の進展も無いだろうし、逆に悪化させてしまうだろう。
でも御飯とかどうしよう。紅葉ちゃん、一人で出来るかな? まぁそれぐらいなら紅葉ちゃんが寝ている時や学校に行っている時に作り置きしておけばいいか。
白時の髪を撫でながら、ぼんやりと考える。白時は猫のように目を細め、されるがままになっている。
そんな時、不意にポケットの中の携帯が低く唸る。ヴァイブレーションの低い音が着信を告げているようだ。俺は着信名を見て僅かに考えた。本当にどうしよう。
──今、何処にいるの? 会いたい。
紅葉ちゃんからのメールだった。この調子だと既に俺の居場所に目星を付けて向かっている事だろう。本当にどうしようかな? でも何時までも此処に居たら見つかってしまう。取り敢えずさっさと此処を去ろう。