3
硝吸鎌は蜃の頬をゆったりと撫でると、彼が横たわる床に魔法陣を出現させる。跪いていた硝吸鎌が立ち上がり、私が何時も使っているような武器状の鎌を生み出すと、切っ先を蜃の首に当てた。そのまま莫大な力を蜃に注ぎ込んでビスクだった肌を戻し、完全な人間の姿へと変貌させていった。
「終わりだ」
硝吸鎌はぴくりとも動かない蜃には微塵の興味も示さず私に近付いて来る。私の前で立ち止まると、また何時ものように私の顎を掴んで強制的に上を向かせる。
本当は直ぐにでも蜃の元へと駆け寄りたい。しかし硝吸鎌がそれを許してくれなかった。
「私はね、唐紅。汝が欲しいんだ。だから、代償の代わりにある程度の望みは叶えてやるつもりだ。私は……寛大だからね……」
代償を求めている時点で寛大なんかではない。寛大ならば代償を求めずに行動を起こして欲しい。私は顔を動かせない分、目を逸らす。彼の状態がどうなのか、無事なのか、気になる。
「蜃は平気なの?」
「あぁ、成功した。だが念の為滅籍の伴侶にも伝えておけ。まだ万全という訳では無いからな。あとくれぐれも汝が望む形では無いことを忘れるな」
私は瞬きをして返事した。大丈夫、忘れる事なんか出来ない。これは私への罰でもあるのだから。
ところで先程から気になっていたことを問い掛ける。
「取らないの……? 見えざる目……」
「期限が来たら奪うさ。まだ奪う時じゃない」
それだけ言うと、瞼を閉じて私の唇に接吻した。相も変わらず大理石のように冷たい。だから暴れまわる事もなく、拒否反応を起こすことも無い。しかし、好きでも無い癖にこんな事しないで欲しい。不愉快である。