1 復讐
ブッシュ・ド・ノエル本部、その一角である死体専門の救護室、一般的な病院のように病室がずらずらと並んでいる。その廊下を緩やかな足取りで通過しながら、俺は白時に語り掛ける。
「さぁてと。紅葉ちゃん怒っちゃったし、こういう時はしばらく会わない方が良いのかな?」
──そうだねぇ。かなり興奮してたし……、らしくない……。
脳裏に直接響くような声で返事を返す。
紅葉ちゃんが怒っている理由が分からない。生きる価値とはなんなのだろう? 楽しみとは? 理解出来ないのは俺が中途半端な存在だからだろうか?
分からないけれどモヤモヤする。そしてこの気持ちが自分にとっての害になる、毒ガスのようなものだと悟っていた。だからどうにかしなければならない。
その為に紅葉ちゃんを助けたのだ。助けてあげれば笑顔になってくれる。心のモヤモヤが晴れて、俺は人間に近付ける。しかし結果は真逆に終わった。返って来たのは笑顔ではなく怒り。これから紅葉ちゃんの笑顔を見ることは叶わないのかな……?
俺はぼんやりと過去を反省しながら歩を進める。
でもまずやることは俺をこんな状態にした、あのゴミ虫を始末する事だ。
俺は本部を後にすると迷う事なく森林公園へと向かった。街中のショウウィンドウ内に存在するマネキン達が、通り過ぎる人々を見つめている。人よりも半死半人という存在は此方に近いのかも知れない。此奴等に心が存在するならば、何を思うのだろう?
ずっとそんな事を考えていると目的地へと到着し、標的を発見した。紅葉ちゃんを襲ったあのクズ。それ以外にも何体か発見したが、今の標的はただ一体。
辺りに人が居ない事を確認してから、短く告げる。
「狩場への入口を開く」
辺りの空気が反転する。皆が過ごしている世界が表ならば、此方は裏。生命と言えば死体狩りぐらいのものだ。
俺は他の死体には目もくれず、一気に加速。他の屍の合間をすり抜けクズの頭を鷲掴みにした。普通ならば此処で握り潰すのだが、今はそんな事はしない。存分になぶり殺すとしよう。
──塊にぃ、楽しそう。
「楽しくなんかないよ。そもそも楽しいってなに?」
俺は白時と会話をしながら、クズの纏っていた衣類を引きちぎる。それから指を揃えて喉元付近に突き刺した。露わになった素肌から血が噴出するが、気にしない。迷う事なくカッターでも下ろすように、纏まった指を下に下ろし、皮という袋の中から内蔵を露わにさせる。