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私達は母方の叔母に引き取られることになっていた。新しく家族になる私達を叔母と夫、そしてコウは温かく迎え入れようとしてくれた。しかしそれを私が拒否したのだ。
理由は単純だった。私達が引き取られれば、少なからず叔母や夫の目が私達に向く。そうすれば必然的にコウへの愛情が半減してしまう。コウはまだ甘えたい盛りで、私達がそれを邪魔する権利なんて有りはしないのだ。
だから私は一人でもこの、家族と過ごした家に残る事に決めた。引き取られるのは蜃だけで十分だった。その旨を伝えると、彼は笑って言ったのだ
──そんな危ないことさせられるわけ無いでしょ? 俺も残るよ。
何かを悟ったらしい叔母が苦笑いで『じゃあ、生活費だけでも出させて頂戴。それと困った事があったら直ぐ連絡するのよ』と約束し、二人での生活が始まった。大変な事も腐るほどあったけれど、蜃と居たから乗り越えられた。二人でずっとこんな生活が続くと思っていたのだ。
あの夜が来るまでは。
死体狩りとなってまだ数ヶ月した経っていなかったとき、私は死体の処理に時間が掛かり、やや遅くなって帰宅するところだった。蜃が心配している……そう思いながら駆け足であの公園を通り過ぎようとした時だった。
死体に喰われかけている兄を発見した。兄の体の大半は死体に喰われ、殆ど衰弱した状態だった。死ぬのは時間の問題だった。私は怖くなり、咄嗟に相棒の名を呼んだ。蜃を死なせない為に、死体にさせない為に。
結果として硝級鎌が施した術は成功した。“半死半人”という形で。故に蜃は過去の記憶を失い、感覚、感情さえも失った状態で生き返った。触れられても分からず、腕を折られても痛みを感じない。悲しみも、怒りも、喜びさえも全く持って理解不能。私は自分の寂しさ故に“蜃”という兄を殺し、生ける屍を生み出したのだった。
元々、硝級鎌から告げられていた。『確実な蘇生は不可能だ』と。それに文句は無い。だから目の前にいる兄が兄では無いと自覚する事にした。
塊、私がそう呼び、呼ばせているのは『死体となった蜃』を主観的にも客観的にも認識するためだ。『土から生まれた鬼』、だから『塊』読み方を変えなかったのは恐らく、兄に未練があったからだろう。そんな自己中心的な私が、彼奴に助けられて良い訳がない。寧ろ殺されなくてはならない。
「紅葉、考え過ぎ。そして心の整理がつくまでは塊に会っちゃ駄目。また激情に駆られてしまうだろうから」
穏やかにそれだけ言うと、所長は病室を去って行った。一人残された私はベッドに寝ころび、羽毛に顔をうずめた。