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今回はかなりのネタバレが入ってます。
そう言うと、黙って腰を上げてこの殺風景な部屋から退いてくれた。助かる。これから修羅になるのだから。
「塊……」
「なぁに? 紅葉ちゃん?」
「何で助けたの!? あなたは私を見殺しに出来る!! しなければならない!! 私は……あなたにそれだけの事をしたのだから……」
虚ろな目を向けると塊が無言で見つめ返してきた。水面に自らの顔を映したような虚空さ。
あぁ……こうしてしまったのは私なのだ……。痛みも、何も感じさせなくしてしまったのは……私……なのだ。
だから……泣いてはいけない……。
「あなたを無理に延命させ、痛覚も、感情も毟り取り、あなたを木偶人形にしてしまったのは……私……なのに……。生きる喜びも悲しみも何も感じない。生きる価値が分からない……。そうさせたのは私……なのに……」
塊は無表情にも私を見つめていた。きっと叫んでいる理由が分からないのだ。
そんな哀れな木偶人形は首を傾け、不思議そうに首を傾けた。今までの、巧妙に作り上げられてきた演技の仮面を外し、出会った当初の顔になる。
無だ。何も映さず、何も感じさせない、虚空さ。
「殺せっ!! 殺せば良かったんだ!! 私を殺したら、お前はこの呪縛から解放される。無意味な生を捨て、自由になれた!! なのに……どうして……?」
塊の胸倉に掴み掛かり、問おうとしたその時だった。
「こらこら喧嘩しない。塊、一回表出てて」
「はぁい」
激発した感情をいなすように所長は現れた。そして塊は所長に言われるがまま、病室を後にする。所長は肩で息をする私を一瞥すると、大きな溜め息を一つ付く。
呆れているのだろう、こんな自分勝手な私に。それはそうだ。私のしたことを知れば誰だって軽蔑する。
「紅葉、怒るよりも前に塊に御礼を言わなきゃ駄目だろう? あの子は恩人で、君の大切な“家族”なのだから」
「でも、だから……だから蜃の人生を滅茶苦茶にした私は、彼奴に殺されなくてはならないと思うんです」
塊は──私の唯一の肉親で、兄だ。本名は不知火蜃。蜃気楼のよく起こる、海の日に生まれたからそう名付けられたそうだ。
蜃は私の良き兄だった。不満と言えば似てないこと。塊は母親似で、私は父親似だった。兄弟と勘違いされたのは従姉妹のコウの方だったことを覚えている。私の母とコウの母は双子なのだ。そして蜃もコウも母親似。似ていて当然。でも兄妹として見られなかったことは少しだけ寂しい。勘違いされる為に何時も家族写真を取り出して、『私は父親似で、蜃は母親似なんです』と説明したものだった。そしてまだ幼い私の面倒を見て、気遣ってくれた。 そう、両親が行方不明になった時も。