1 応急処置
「あぁ、拙い。もやもやする」
俺は無表情にそう言い放つと。紅葉ちゃんの体を貪るゴミ虫を引き剥がした。紅葉ちゃんの顔は徐々に青ざめていき、苦しそうだった。
紅葉ちゃんが辛そうだとモヤモヤが増幅する。既に俺の心は沼地と化していた。だから……早く元気になって笑ってよ……。
ゴミ虫は俺の腕に噛み付き、血肉を食い破るけれど、何ら痛くない。視界に入れなければ噛みつかれた事すら気付かないだろう。そして食い破られた血肉は一瞬にして増殖し、瞬く間に再生を遂げる。まるで生ける生物兵器だ。
「ねぇ、後で覚えてろよ?」
それだけ言うと無言でゴミ虫の腕を一回転させ、後方に放り投げる。今はあんなクズに構っているよりも、目の前の紅葉ちゃんを救出しなければ。
俺の為だけに生きて、死ぬって約束したじゃん。奴隷になるって。嘘吐き……。あぁでも……俺も守れなかったから同罪か……。
俺は背負っていた楽器ケースの中から、時計の秒針だけを引き抜いたような己の聖遺物を取り出した。
「白時、応急処置出来る? 時間を巻き戻すとか」
──えぇー!! まぁ、やることはやってみるよ。紅葉ちゃん死んじゃうのヤダし。
紅葉ちゃんの体の傷が少しずつ埋まっていく。でも完全には治す事が出来ず、事務所に辿り着くまでの応急処置といったところだろう。
「有り難う、白時」
紅葉ちゃんを事務所に連れ返ると、秘書さんが控えていた。連絡を受けていた秘書さんは、真剣な面持ちで紅葉ちゃんの状態を確認すると、屍刺鞭を患部に巻き付け、治療に入る。
「塊君、有り難うね。先にブッシュ・ド・ノエル本部に行って待っててくれるかな?」
「はぁい。死なせないで下さいね。もしも死なせたら、怒りますよ?」
何時も通りの笑顔で俺は閏日さんに言った。“怒る”という感情が何なのかよく分からないけど、小説で読む限りではこういった時に使うのだろうと判断した。
「そんなことさせないよ。私の誇りに掛けて」
閏日さんは僅かに口角を上げて笑った。
塊お兄さん……。
とうとう素が出たね……(*≧Δ≦)