1 擦れ違いへの一幕
朝飯を食べ終わった私達は早々と事務所に向かい、只今絶賛所長と顔を合わせている。理由と言ったら勿論、死体の出所を聞くためなのだが。
「説明し難いから途中まで私が案内しよう。私は街中の死体を始末するから」
出所を期待していたので、ちょっと拍子抜けした。まあ、理解の出来ない説明をされて、目的地まで辿り着けないという最悪の事態は回避出来たわけだが。
私はロッカーから楽器ケースを引っ張り出し、中身を確認する。中には重々しく鈍色に輝く鋼の十字があった。在って当たり前なのだが、在るとやはり安心する。
ちらりと横目で塊を見やると、珍しく自らの聖遺物を引っ張り出していた。
「持ってくんだ」
「たまに使わないとグレちゃうでしょ?」
まぁ、そうだ。塊の相棒は無邪気だてらに残酷。何処か硝級鎌と似通ったところがある。気紛れ……というか奔放なところとか。
塊も楽器ケースを担いだところで準備は出来た。所長も真剣な眼差しで頷くと、扉を開けて出て行った。
カンカンカンと階段を降りる音が響き渡る。私達一行は所長の後を付いていく。そもそも何処に出たのだろう。何となく予測するところでは、森のある公園な気がするのだが。
「所長……もしかして……」
「もしかしなくとも、森林公園」
「滅茶苦茶広いですよね」
塊があっさり返答する。確かにデカいのだ。中に林……というか整備されている森があるのだが、とにかく広い。そしてその分木陰も多い。死体が居てもなんらおかしくはない。所長が口で説明をしたがらない理由がよく分かる。
段々と、悪臭が強くなっていく。鼻のもげるような死臭。今にも吐き出しそうだ。それに内心うんざりしていると、二人の空気が不意に緊迫した。
「此処からは、二人で殺れる? 」
「御安心を」
塊の安定した声音が響き渡った。
「いいかい。重傷になったら、即刻戦闘を止めて事務所に戻るんだよ。死体の始末なんて、手当てし終わっても十分に間に合うのだから」
「はぁい。ではまた後で」
所長の重厚な説明さえをあっさりと聞き流し、塊は口元を吊り上げた。まぁそうだろう。私の生存よりも死体の始末のが大切だ。そして彼は獲物を見つけた猫のように。私も硝級鎌を出して戦場に備える。
「狩場への入り口を開く!!」
「狩場への入り口を開く!!」
私達の足元に魔法陣が出現し、パラレルワールドへと移動。塊は先程にも増した猟奇的な目で前を見据えると、バキボキと指を鳴らした。やや駆け足で直進すると空を掴む。鷲掴みにするような動作で何かを掴むと、思い切り投げ飛ばす。
私は狩りに夢中なる塊を無視し、感覚で居場所を探知する。臭い、悪寒、音。使える感覚を全て駆使し、一体目に狙いを定める。担ぎ上げた硝級鎌を横凪に振りかざし、遠くに投げ打つ。考えたく無いが、凪いだ部位は恐らく首。常人ならば即死レベルだ。だが相手は死体。こんな事ぐらいではへばらない。
硝級鎌の描いた軌道と臭いを元に、場所を確認。同時に相棒に向かって刃の生成を要求する。目標まで後十数歩。脱力感を味わいながらも駆け足でいけば直ぐだ。
「ぐっ」
私は標的に向かってがむしゃらに刃を振るった。抵抗する手が鎌を掴み、危うく持って行かれそうになったが、凪払って阻止。生死の境が分からない私は鎌を振るいながら塊の名を叫ぶ。
とある某公園は滅茶苦茶広いです(*≧Δ≦)