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夢の中でも彼は彼らしく猫のように振る舞う。現実とのズレがなくて安心した。
「ねぇ、硝吸鎌……」
『重いから離れて欲しい』と文句を言おうとした時だった。冷たい手の感触が消える。急に怖くなり、辺りを見回すと、橙を落としていた窓が今では紺碧を落としていた。
さっきまで夕暮れ時だったのにどうして? いや……夢なのだからおかしな事はないか……。事務所内は不在だし、自宅でも覗いてみることにしよう。
そう思って事務所を後にした。
ふらふらとした足取りで最初にいた公園の前を通る。すると青年が駆け足で此方に向かって来るところだった。その姿に息が止まりそうになる。どうして……君が此処にいるの? お願い、早く帰って。でないと……。
──あの時と同じ事が起こる──
理性よりも感情が先に動いていた。息を切らしながら私の体をすり抜けた青年の後を追う。青年はいちど立ち止まり、公園をざっと見回す。まるで誰かを探しているかのように……。
私は自分が触れられないことも忘れ、彼の腕を掴む。それでも私の幻覚めいた指は腕をすり抜け、掴めない。此処までもどかしいと思った事なかった。自分の夢なのだから願いくらい叶えて欲しかった。もう……あんな様は見たくはなかった。
だから、お願い……。気がついて!!
「全く何処行ったんだ。もう遅いのに帰って来な……」
不意に彼の顔が苦痛に歪んだ。苦しそうに脇腹を抱え、その場にうずくまる。額からは玉のような汗が滲み、口からは荒い吐息が出される。その様子を見ていた私は自分の血の気が引くのを感じた。
「ああああああああああ!! 痛い……はぁ……ぐっ……」
今の私には全く見えないが恐らく“死体が彼の脇腹を食い破った”のだろう。私は死体を引き剥がす為に、彼の脇腹に向かって手を伸ばす。
離れろ、お願いだから離れてくれ!! 夢でもなんでもいい!! 私の姿………が死体に写れ!! 私を標的にしろ!!
彼が死ぬぐらいなら、私は自分の命なんて惜しくはなかった。
あーついに此処まで来たって感じです(*≧Δ≦)
終盤が徐々に近づいていく……(≧◇≦)