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此処の公園は自宅からも事務所からもそう遠く無いし、徒歩で行こうと思えば行ける。……あぁ、でも階段は上れるかな……。この調子だと無理そうだし……。でも自分の夢なのだから、ある程度は融通が利くはず。
つべこべ悩んだ結果、先ずは事務所に行くことにした。昼間ということは恐らく学校にいるのかも知れないし、学校に向かうには遠すぎる。ならば先ず死体狩り事務所へ。
多少駆け足になりつつ、事務所に到着。自分の夢とはいえ、何処まで融通が利くかは分からない。恐る恐る一段目に足を掛ける。そしてもう片方を一段目に乗せる。良かった。階段はクリア。私は慎重な足取りで登り終えると、するりと扉を通過した。
中は無人かと思われたが、先客が一人。所長だ。だが何時もと様子が違う。なんと彼は夢見る乙女がするように窓縁に肘を着いて、指先に小鳥を乗せていたのだ。
こう言ってはなんだが、色々な意味でがっかりした。もっと現実を直視し、夢物語にはなんら興味を示さないと思っていたのに……。え……もしかしたら私は深層心理では所長をそんな風に見ていたのか……?
自分に絶望し、危うく両膝を床に着くところだった。なお、そうしなかったのには今の現実をも超えるような出来事が起こり、体が完全に硬直したからなのだが。
「有り難う。何時もご苦労様」
どうしよう……所長が恐らく過労のせいで現実逃避を行い始めた。幾ら夢とはいえ、こんな事をさせている自分が許せない……。
さぁっと顔から血が引くような感覚を覚える。膝を着く前に貧血で倒れてしまいそうだ。そして、そんな私に構う事なく所長は慌てて事務所を飛び出して行った。
所長が飛び出して行ってからも、硬直は拭えなかった。
しかし何時までも凍り付いてばかりもいられない。幸い所長も出て行った事だし、そっと自らのロッカーに近付く。こんな誰からも知覚されない状態でも、彼は見つけ出してくれるだろうか……?
ロッカーの扉を両手がすり抜け、いたずらに掻き回す。それでも何の感触もないところからして、やはり聖遺物にも触れられないとうことか。
諦めて手を引き抜こうとしたとき、不意に後ろから目隠しをされた。驚いて一瞬息を呑む。姿は見えていないはずだし、聖遺物にも触れられなかった。だから……何故。
「珍しいな、唐紅がこんな時間に現れるだなんて」
「硝吸鎌……!!」
濡れ羽の髪。飄々とした双眸。私にべったりと張り付くその様は間違い無く硝吸鎌そのものだった。硝吸鎌は私の顔を数秒間見つめると、怪訝そうに眉をひそめた。
「どうしたの?」
「あぁ、いや。何でもない」
硝吸鎌は元々秘密主義である。尋ねても真っ向から質問に答えてくれることはほぼないし、隠されるか、ぐらかされるのが殆どだ。だからなんら問題はないと思う。