1 警告
目を覚ます。私はもう何度も見た異国の路地裏に立っていた。そして私以外にも客人が一人。
「要智さん」
「ん、昨日振りだな」
つくづく不思議な人である。夢の中で連続で出逢うという事もそうだけど、私との記憶を共有しているという事も。彼は誰かの記憶の断片と話していたが、それだって私が作り出したものだ。こうやって自ら夢を作れるならば、もっと望んでいることを実現してみたいものだ。
私は要智さんの元へ近付くとタイルの上に腰を下ろした。取り敢えず一礼。
「最近は大分慣れてきたみたいだな」
「はい」
私が無表情に頷くと、彼はくしゃっと顔を歪めて笑った。無邪気な子供の笑み。それから私に向かって手を伸ばそうとしてくる。凍り付く私の背筋。体が、本能が、人の熱を拒否していた。
「おっと、お前は触るのは苦手な質だったか」
「すみません」
「いいよ。誰だって苦手な事や、嫌な事はある」
「……」
要智さんは困ったように、にこにこと笑っている。早く治さねばならないと思いつつ、治し方が分からない。本当、溜め息しか出ない。
私は要智さんとの間にある重たい空気を消し去りたくて、話題を変換した。
「要智さん。何時も此処でしか話した事はありませんが、路地を抜けるとどうなっているんですか?」
「自分の目で確かめて見るといい」
要智さんは僅かに口角を上げると路地裏へと誘った。
硬い石畳の上を歩いて行くと、見覚えのある風景が広がっていた。
「どうした? 来たことでもあるのか?」
「はい……」
以前私が気紛れに迷い込んだ細道。その開けた広場のようなところに来ていた。……いやいや、夢なのだから何ら珍しい事ではない。驚く事もない。
私は鷹揚に辺りを見回し、状況を確認する。前と同じく静まり返っていて、烏の鳴き声一つ聞こえない。ただ一つ、異なる事があった。ローブ姿の占い師と思われる人が、台に乗せた水晶玉に手をかざしていた。
「あの、要智さん。ちょっと行って来ます」
「あぁ」
私が駆け足で近付くと、占い師が顔を上げた。目深に被ったローブのせいで年齢は愚か、性別までも分かりはしない。普通ならこんな怪しい人物に近付こうとも思わないのだが、夢だからと自身を納得させる。
占い師は私の存在を確認すると、また水晶玉に目を移した。同じように覗き込むものの、何も見えやしない。何時までもこうしていても何なので、口を開く事にした。
「あの──」
「汝の身に近々禍が降りかかるだろう。そして汝は向き合わなければならない。汝が犯した罪と──」
息が止まりそうになる。呼吸が上手く出来ない。此処で意識を手放す事になる。