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「食器洗っちゃうから、お風呂入ってて」
「へぇーい」
塊が無理矢理背中を押して部屋から追い出そうとしてくる。自分の足で歩けるのだから放っておいて欲しい。なんて言っても塊は嫌な顔一つせずに、私に構い続けるのだろう。
ひんやりとした廊下に身震いしながらも脱衣場へと向かう。髪に触れると少しごわついていた。指を通すと引っ掛かってもつれてしまう。早くとかさなせれば。
脱衣場に着いて私はブラシを片手に毛先から梳き始めた。上から梳こうとすればするほど髪同士がもつれ、新たに絡まってしまう。だからこういった手入れは毛先の部分をほぐし、それから徐々にとかす位置を上げていくに限る。こうする事によって、絡んだ髪が新たなもつれを生むことなく綺麗にとかせる。
毛先に触れると湿っぽかった。だからと言って指に水滴が着くことはない。変な現象。
──顔色悪いよ。
先日、塊が言った言葉。悪くなんか…………ない。血色が良いという訳では無いけれど、青白くもない。極めて何時も通りだ。彼奴は何を思って言ったのか。
「ばぁかっ…………」
そう虚しく呟いて、私は服を脱ぎ捨てる。こんな風に、感情も表情も脱ぎ着可能ならばいいのに。いやっ……そんな事は考えてはいけない。絶対に……。
風呂上がり、髪を乾かし終えた後、私は壁に凭れながら塊と話しをする。しっとりとした黒髪が今の私の気分、状態を良く表していた。
「疲れたので、もー寝ます……」
「顔色悪いよ? 大丈夫?」
「それこの前も言った。そして悪いなら殊更早く寝なきゃいけないじゃん」
「添い寝して……」
「邪魔」
「はいはい。全く連れないんだからー」
何とでも言えばいい。本気で此奴が添い寝したいのなら、それこそ私の意志は無視される。嫌な顔しても、それこそ蹴飛ばしても潜り込んで引っ付いてくる。うざい位に。
「おやすみ」
「おやすみ~」
早足で自分の部屋に向かい、いきなりベッドにダイブした。スプリングの軋む音と、内臓への鈍い痛み。痛みを受けたのはベッドだけでは無かったようだ。
上半身を起こして膝を抱え込む。なんだか疲れている。まだまだ動けるようでいて、実はもうヘトヘト。体は元気なのに、神経が焼き切れそう、そんな感じ。体は求めてなくとも脳は安らぎを求めている。だからさっさと布団にくるまる事にした。
真上に見えるのは暗い天井。カーテンの隙間から漏れでた月光がコの字を描いていた。