3
床を張っていた、空を裂いていた荊が元いた場所へと引き戻って行く。何かに巻き付いているように見えるのは恐らく死体だろう。その様を呆然と見据えていた。
荒くなる呼吸。そろそろ鎌を形成しなくては不利になる。私は硝吸鎌を担ぐと手短に命を下す。
クロスされた十字の先端に光の粒が凝縮。それが崩壊する時には息を飲むほどに美しい鎌が形成されていた。
「あと、何体ですか……?」
「三体……」
「三体……」
二人の声が荒い息と共に吐き出される。二人共既にボロボロだった。所長と閏日さんは互いに背中合わせの状態で、所長は硝吸鎌を、閏日さんは棘屍鞭を構える。
私は何処に居るか分からない為に、辺りを睨む事しか出来なかった。
「紅葉、真っ正面に死体が一体いる。その刃でぶった斬ってやんな」
「はい」
短い返事と共に、私達は互いに床を蹴って走り出した。担いだ硝吸鎌をそのままに、不器用ながらに回転させる。そのせいか刃を掠め、関節には当たっていない気がする。あの背筋の凍る感触もない。
私は歯の擦れ合う音を出して、硝吸鎌の刃を下に向けた。そもそも上と下を真っ二つにするために、藪から棒に振りかざしていても意味はない。ならば──!!
あった。ちゃんとした気色の悪い感触。指から電流のように流れ込んでくる震え。“腰の辺りに柄を押し付け、回転させる”という技法は強ち間違ってはいないようだった。
次にトドメを。と思った際に巨大な刃が私の眼前を掠めていった。
「後は任せて」
弱々しい声のまま、所長は硝吸鎌を使用して敵を解体し始めていった。
最後の死体が始末し終わる頃には、もう三人揃ってヘトヘトに疲れ果てていた。正直私も意識が朦朧とする。その場に倒れ込んでしまいたいが、死体の血で汚れているであろう床に突っ伏するのはどうしても気が引けてしまう。
「終わり………ですか?」
そう言って見回すと、閏日さんも所長も気が抜けたようにへたり込んでいた。ぼそっと呟いた私の問いに応えるように、二人は弱々しい笑みを浮かべて笑う。
「あぁ…………始末……終了…………」
「このままじゃ流石に歩いて帰れないから、脚だけ罅荊に治して貰おう」
閏日さんはスイッチが切れたのか、いたぶられている時に見せるとんでもなく恍惚とした表情をしている。それを見て詰る気にもならない所長と私は短い溜息を吐き捨てた。
閏日さんは長い人差し指で屍棘鞭を撫でると、赤毛の青年が現れる。
銀縁の眼鏡。中から覗く鋭利な瞳には無駄を感じさせないと共に、無機質な冷ややかさを称えていた。
そして現れて早々に……。
「血みどろの汚い指で、私の聖遺物に触らないで下さい。豚如きが」
ワインレッドの髪が僅かに揺れ、長い足がぐりぐりと閏日さんの脇腹を踏みつける。