1 数という名の苦戦
授業を終えて放課後になり、私は携帯のディスプレイを開く。メールの着信があった為に死体狩りの仕事であると予測する。
正直見る必要性すら感じなくなることに嫌気が差してくる。それでも死体の出所が分からないと対処の仕様も有りはしないので、取りあえず見ておく。
案の上、所長から。内容はやはり死体に関する事だった。閏日さんと所長で対処を進めているようだが、どうやら手に負えないらしい。珍しいこともあるものだ。勿体ぶって最終手段を避けているだけかも知れない。
まぁ取り敢えず、今は急ごう。私は駆け足で学校を後にした。
電車に揺られながら思ったこと。そもそも私が行っても時間的に見て殆ど始末し終わっているのではなかろうか……? 別に行かなくても良いのではないか……? そう思いながらも気分が落ち着かず、そわそわする。私一人追加されたところで、現状が変わるとは到底思えない。それでも行かなかったせいで、二人が重傷を負ったり、死んだりしてしまったら罪悪感が心にのし掛かる。
そう、あの時のように──。
だから同じ失敗は二度としない。もっと強くならなければ。
そうこうしている家に電車が止まり、私は慌てて駆け出した。一分一秒が惜しい。焦りが私の歩行を早めていく。街行く人々ががやがやとノイズを撒き散らす中、リズム狂いで足音が響き渡っていった。
息を切らしながら事務所の前まで来ると、見知れた男が馬鹿でかい箱を担いで立っていた。
「焦るな」
黒い夜を模した瞳が、じっと私を見つめている。
「硝吸鎌……? 何で……こっちに…………来ているの……?」
「別に。ただの気紛れだ」
嘘だと思う。硝吸鎌は気紛れで此処へは現れない。だって彼は筋金入りの人嫌いで、同じ空気を吸う事すら嫌がるのだから。
でも今はそんな事に構って居られなかった。鼓動と共に汗が吹き出してくる。私は硝吸鎌に向かって手を伸ばし、催促する。『お前が今担いでいる聖遺物を寄越せ』と。
硝吸鎌は不機嫌そうに溜息をつくと、聖遺物が入った楽器ケースを回し渡す。それと同時に、片腕が私を掴み、ぐいっと自分の元に引き寄せて来た。そのまま抱き締める形となり、耳元でそっと囁いた。その言葉に泣きそうになりながらも強くと、彼の姿は霧のように溶けていく。
「大丈夫だよ。あんたが居るんだから」
単純に嬉しかった。嬉し泣きだ。でも喜んでばかりも居られないので早歩きから走りに変えていく。近道をするために複雑怪奇な路地裏を抜けて目標地点まで急ぐ。
臭いだけが一層に強く鼻孔を刺激して、激しい嘔吐の間隔を掻き立てる。正直気持ち悪い。それでもそういった気分になるのは死体が近付いる証拠だ。
鼻がもげそうになった所で、目標地点に到着した。私はくらくらしながらも魔法陣を出現させる。
「狩場への………入り口を開く…………」
辺りが闇に包まれて、一瞬にして別世界へと移動させられた。元いた場所と違うと言うことは所長が滅籍を使用している証拠だ。
辺りに立てかけられた柩、美しいステンドグラス、白い祭壇。創造したのは恐らく、『教会』。私が知る中では一番効力の強いフィールドだ。