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「さとりんって……」
雫がぽかんと口を開き、そのままフリーズしている。
うん。そうしたい気持ちは良く分かる。群青は前髪を掻き上げて呆れた溜息を漏らした。
対する三人は『何か変な事言った』とでも言いたげな顔。
「恥ずかしがるポイントが人と少しずれてるよ。スカートのまま体育座りするし、立て膝立てるし、何度言っても聞いてくれないし……」
「だって誰も見ないもん。こんな極太脚見るのは、相当な物好きしかいないもん」
「ね……。こういう子なんです……」
夜久君は深い溜め息をついて頭を抱えた。なる程、こりゃあ凄い問題児。
対して覚さんは口を開けてぽかんとしている。物事の中心でありながら、蚊帳の外にいると言ったところだろうか?
「だって恥ずかしくないもん」
そう言ってスカートを託しあげた。其れを見ていた私達は髪が逆立つ程に慌て、周りに夜久君以外の男子が此方を向いていないかを確認する。そしてさっと覚さんの周りを囲み、視線から隠す。対して夜久君は跪き、託し上げたばかりのスカートを両手で下ろす。
元々、覚さんのスカートが長く、私達の迅速な行動が功をそうしたのか、被害は最小限に止まった。
「もう!! もう!! もう!! さとりん、お願いだから恥じらいを持って!!」
「他の誰かが見てたらどうすんの」
「流石のあたしも其処までしないぞ」
「夜久君をこれ以上セクハラと勘違いさせない為にも」
「本当だよ!! 街中でやったら悪いのは俺になるの!! 分かった?」
愛子さん、雫、群青、私、夜久君の順で覚さんへ向けて説教する。四人から叱られた覚さんは萎縮して、肩を縮ませた。
理解は……してないか。生まれたての子供に説教しても意味が無いのと同じように、怪訝な顔をしている。
しかし聞こえるか聞こえないかの声でぽつりと呟いた。
「あぁ、でも。……が困るなら……」
「えっ?」
「あぁ、いや……。なんでもないよ」
覚さんは一瞬見せた虚無的な顔を隠すように笑顔を作った。純粋な無邪気さだけを得てして作られたものだ。それを見て、夜久君は曖昧な微笑みを浮かべて頭を撫でた。撫でられた方の覚さんはされるがままになっている。男子になかなか気を許さない覚さんにとって、唯一無二の大切な存在なのだろう。
「と言うか街中でやんないし。そんな私は安くありませーん。見たら金取る!!」
「もう、そう言った汚いお金の話は止めなさい!!」
夜久君のお説教じみたツッコミにより、この会話はお開きとなった。