1 鎖骨は弱い方ですか?
覚登場ですー(ノ^^)ノ(ノ^^)ノ
独白の主役級ですが、いじられてます。
「おっ、紅葉はよー」
「おはよ、群青」
学校に着くとなにやらクラスが賑わっていた。最初こそ静まり返っていたが、私に慣れてくれる人が若干増えてマシになったのだろう。
賑わいの根元を探す為、私は辺りを見回す。すると愛子さんがクラス中の男女問わず鎖骨を触っていた。ある意味愛子さんだからこそ許される行為である。
でも、一体何をしているんだ……?
疑問に思う様子に気付いたのか、群青が説明してくれる。
「あぁ。アメの鎖骨から上を触ると良い反応するからって、他の奴もそうなのか試しているらしい。ちなみに私も触られた」
アメ、と言うのは勿論食用の飴などではなく、人のあだ名である。本名は感見覚。女子には誰に対しても笑顔を浮かべるが、男子が苦手なのか特定の子以外と話す時は表情が強ばっている事が多い。
前に自己紹介で『極度のコミュ障で、初めてお話する方には無愛想な事が多いです。でも決して嫌っている訳ではないので気にしないで下さい』と早口にまくし立てて、さっさと座ってしまった事を思い出す。クラスでは殆ど話した事はないけれど、悪い子という印象は抱かなかった。
ちなみに、あだ名の理由は“感見”から。“甘味”と同じ発音で美味しそうだからと愛子さんに名付けられたそうだ。
その子が只今絶賛愛子さんに振り回されているのか……。
「紅葉おはよー。今ねー、半泣き状態のさとりん見てきたのー」
雫が嫌に嬉しそうに語ってくる。いや、半泣き状態って……。それ笑って言う事じゃないだろ……。
分かっていると思うが、“さとりん”とは感見覚さんのこと。名前の由来は“覚”から。これも愛子さんが名付けだとか。
私が微妙な顔をしていたせいか、雫は慌てて訂正と補足を入れる。……罪悪感のせいか目が泳いでいたが。
「いやね、可愛いの。『虐めないで下さい』って捨てられた子犬のような目が何とも。守ってあげなければ~。と思いつつ、ついね……」
「はぁ…………」
「はっ、紅葉様。おはようございます。ところで鎖骨は弱い方ですか?」
ひょこっと顔を出したのは話題のほぼ根元である愛子さんである。
彼女は何時ものようにテンション高く、高い位置に結いた細めのツイテールを揺らしながら挨拶して来た。
その後ろには巻き沿いを食らわされている感見覚さん。左寄せに束ねられた色素の薄い髪が特徴である。
私の顔を一瞥するとはにかんだように笑って隠れてしまった。何時もはもう少し覇気があった気がしたのだが、急所をなじられて元気がないようだ。
「鎖骨というか全般に弱いかな……」
「ほうほう。ちなみにさとりんはデコルテから上全部だよー」
「言わないで……これ以上。『あっ、変態だ。はよー』とか言われたらもう………学校来れないよ…………」
本当だ。覚さんは雨の日に捨てられた子犬のような表情で体を縮こませた。
なる程、保護欲を掻き立てられる反面、妙な加虐心をもオマケで付いてくる。
対して愛子さんは闘志に燃える瞳をしていた。普段からきゃぴきゃぴしていて明るい愛子さんには珍しい表情。
愛子に悪気はありません……(;´Д`)
故に恐ろしい子…………(・_・、)