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じゃあ……誰?
硝吸鎌はそんな風に疑問を抱える私に気にせず、頬を撫で、腰に手を回してくる。犬ではなく、猫に戻ったようだ。
「そのうち、嫌でも関わる事になるだろう。私と関わっている以上、汝が死体狩りである以上。まぁ、一番の被害者は滅籍の伴侶だろうが」
嘲笑うように言い捨てた後、髪にキスを落とす。とてもじゃないが、たった今せせら笑った相手がするようなキスじゃない。親愛に満ち足りた優しいものだ。硝吸鎌の変わり身の早さには時折驚かされる。それと同時に脳内で反芻する硝吸鎌の言葉。
私が硝吸鎌と関わっている、死体狩りである…………。
死体と関わり続けておよそ三年になるが、まだまだ日は浅いらしい。
「知らぬが仏って言うじゃない? その類なの?」
「あぁ、確かに知ったところで禄でもない。あの狸……」
「嫌いなのね」
「彼奴を慕う奴なんて相当な物好きだ。最も猫を被るのが上手く、本性をバラさない要領の良さ故に好かれてはいるがな」
そう言って今度は頬にキスを落とす。強く押し付ける事も吸い付く事もしない、優しいもの。
本当……よくこんな毒を吐いた後で優しい行いが出来るものだな……。と先程に続いて感心の念が浮かんでくる……。
疲れた顔をして、私の肩に凭れ掛かってくる。脱力した表情は久しい気がした。
大抵含み笑いを浮かべて、からかってくるのが常なのだから。ちょっと新鮮。
「意外。硝吸鎌はあまり身の周りの話をしないから」
「身の回りなど、汝だけで十分だ」
乙女なら軽く悩殺出来るかも知れない台詞を、少し疲れた気だるさ漂う目で言われた。
……うん。好きな人には堪らないのだろう。だがからかいにしては少々荷が重い。あしらいには慣れたが。
硝吸鎌の空いている手が私の頬を撫でる。精巧に作られた顔が徐々に近付いて来て、長い睫を閉ざす。それから私の口を塞ぎにかかって来た。長い。普段に比べるとずっと。苛立った様子は無かったが、それでも寂しさを忘れるように押し付けてくる。
「満足?」
「あぁ…………」
そう言って、肩に縋ってくる。この感じが、捨てられた子供のようだった。
硝吸鎌の精神世界から戻って来た後も、誰も居なかった。恐らく、仕事や死体狩りの仕事に身を投じているのだろう。
そんな多少の罪悪感を持ちながら私は家に帰宅した。