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アンデッド ─undead─ 一部  作者: 秋暁秋季
第二体 ミエザルメ
106/178

1 目利き

 不知火紅葉が去った後、ロキと店主はさっきと同じ様にココアを啜っていた。

「ねぇ。あの子に随分と御執心のようだったけど、まさか“アレ”かい」

「ええ。それも曰く付きの」

 ロキが隠したように言った言葉を早々と悟り、鷹揚に頷いた。ロキの怪訝そうな表情に『なにか?』と店主は首を傾けた。

 ロキはあの美しい少女が、とてもじゃないが“アレ”だとは到底思えないのだ。ざっと見た所、才能は皆無だと本能が告げている。いや、だからこそ“曰く付き”、などと言われたのかもしれない。

 その様子を見て、店主はまた含んだような笑みを浮かべた。

「欲しくは無い……かな」

「貴方の目利きに添うような者なんて、そうそうに居ないではありませんか」

「俺はかなり我が儘だからね。でもその点であの子は優秀だ。何時かあの子に殺されるんじゃないかな?」

「大袈裟な」

「大袈裟ではないよ」

 そう言ってまたココアを啜る。注がれた飲み物が半分以下になった所でカナリア色のクッキーを摘む。仄かに甘く、さくさくとした歯触りが特徴の人気商品。ロキは味よりもこの色合いと形が気に入っていた。

 満月を模したような円形に、淡い黄色のクッキー。オーソドックスでシンプルなのだがまた其処がそそられる。

「まぁ、またあの子が世話になる時が来たら宜しくね。なんなら同じ所属にして、いろはを教えるように頼むと良い」

「ええ。言われずともそうするつもりでした」

 店主は口元に三日月の裂け目を作り、笑った。それに臆する事なく、ロキも同じ様に裂け目を作る。

 二人の仲は友人と呼ぶには余りにも親しく、敵と呼ぶには離れ過ぎていた。だがこうして茶会に付き合うあたり、其処まで仲が悪いようには思えない。

 言うなれば“利害が一致した相手の商談”と言ったところか。

「おやおや、相変わらず人使いが荒い。とんだ狸が居たものだ。だから嫌われてしまうんじゃないか」

「一理ありますね」

 そうして軽口を叩き合った後、ロキはすっかり冷め切ったココアを飲み干すと、ソーサーに戻した。双眸には鋭利な刃のような眼光。

 其れの全てを理解した上で、店主はロキを見送ってきた。何度も何度も、其れこそ幾度と無く。

 内心、『親バカ振りを見せ付けられるのはこりごりだ』と思いつつ、何も言わないのは恐らく彼の気持ちが分かるからだろう。

 ロキは隅に置かれていた、楽器ケースのようなものを引き寄せると、そのまま立ち上がった。

「まずいね。見つかっちゃうかも」

「その割に楽しそうですよ」

「そう? だって娘だからね。ココアご馳走様。美味しかったよ」

「相変わらずですね。ココアはお粗末様です」

 そう言ってロキは荷物を背負う。跳ねっ返りの強い彼の毛先が歩く度、ふよふよと揺れてなかなかに面白い。猫が居たら迷う事なく反応していただろう。

「じゃあ、また」

「はい。また」

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