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異国の路地裏に入るまで、金持ちはマンションの最上階でワインを傾けているイメージがあったのだが……。同じ都心部であっても、此処は偉い違いだ。
西洋風……。御伽噺を体現させたようなものが立ちはだかっていた。一つ一つが豪奢で、それでいて成金を見せつけるようでもない、上品な古めかしさ。
そして巨大な門が開かれ、客でも何でも歓迎してくれているようだった。其れこそ野良猫でも……。
しかし気を取られても居られない。戻ろう。だがその前に人に道を聞いた方が良いかも知れない。流石に此処の戸を叩くのは気が引けるが、辺りに何も無いのなら──あれ?
表札の下に何か書いてある……。
「“骨董品店、ブロカウント? どうぞ中にお入り下さい”……?」
何も買うつもりもなく訪れるのもどうかと思う反面、此処から出られないような気がして、私は此処の家主に道を尋ねる事にした。
見ると芝生の上に砕かれた煉瓦が敷き詰められ、屋敷に隣接された店へと繋がっている。
恐る恐る、ゆっくりと慎重に足を進める。そして『welcome』と書かれた扉を慎重に開けた。
「あの、御免下さい」
「おや、いらっしゃい。今日は随分と御客が多いですね」
「いえ、私は帰る為の道を聞きに来たんです。すみません」
店内は橙色の淡い、柔らかい光に包まれていた。棚や机などが木で出来ている為、更に暖かさが増して居るように見える。
そして棚に行儀良く並んだ書物や人形、その他のアンティーク達が商品として大切に飾られていた。
店主は読んでいた書物から面を上げ、柔和な顔立ちに笑みを浮かべた。
若く、所長を彷彿とさせるような弁護士風。銀縁の眼鏡から覗く穏やかな瞳が私の心を安定させてくれる。
そしてもう一人。ブラウンの跳ねっ毛。今時流行の服に身を包んだ青年が大切そうに人形の頬撫でていた。男にもかかわらず、聖母のような綺麗な顔立ち。硝吸鎌とも良い勝負かもしれない。
彼は私に気が付くとゆったりと振り返り、店主同様、微笑みを向けてくれた。 そして──。
「こんにちは、可愛らしいお嬢さん」
と挨拶してくれる。
店主は本を閉じると、顎を摩りながら考えるように言った。
「此処は入り組んでいますからね。でもお疲れのようですし、何か飲み物でも如何ですか?」
笑顔を作り、首を傾ける。確かに慌てていて冷や汗をかいていたが、物も買わず、まして馳走になるのは如何なものかと考え首を横に振った。
「丁度休憩にしようと考えていたのです。それに基本的に御客が来なくて暇をしているので、退屈しのぎに付き合って頂けると有り難いのですが……。ロキ、貴方はどうですか?」
「俺は構わないよ。お嬢さんが構わないなら」
よく跳ねた癖っ毛を撫でると、“ロキ”と呼ばれた青年は私に問い掛ける。
嫌な事は無いのだからいっそ誘いに乗ってしまおう。そう思って私は少しだけ頷いた。
奥に促され、従業員専用の休憩場に足を踏み入れる。
はっきり言って、店内とさして変わらず、大量の本や人形が棚にきちんと収まっている。照明も柔く、店の雰囲気を保ち続けていた。
違う事と言えば、中心に円形のテーブルと、滑らかな曲線を描く椅子が人数分用意されていた事だろうか?
短編集ではお馴染み、パパさんの名前ようやっと出せましたー(*´∀`)(*´∀`)
ロキパパー(ノ^^)ノ(ノ^^)ノ
ロキパパの一部が知りたい方は、カルペ・ノクテム
をご覧下さい_(._.)_