1 硝吸鎌の秘めたる思い
精神世界の一つ。其処で紅葉の相棒である私は、琥珀色の液体を啜っていた。
本当にこの味がするのかは分からない。だが人の記憶から流れ出たものを単純に作ってみただけである。
暇である……。退屈である……。また滅籍と殺り合ったり、罅刑に適当な勝負を持ちかけたりしていびろうか……。あぁ、だが彼奴が怒るから止めにしておこう。
そう思って欠伸をした。出来る事なら唐紅には半永久的に此処の空間に居て欲しいと思う。日がな一日愛でていれば退屈など無いのだから。
だがそうすることによって彼奴が苦しむならば、改めなければならないとも思っている。自分の感情で苦しめる事はしたくない。苦しめるときは完全な自信の元で苦しめる。
塊の時のようにね……。
そしてあんな取引をしておきながら誠に矛盾していると思う。
「矛盾しているのは彼奴も同じか……」
楽に死ぬために私と契約したにも関わらず、死体狩りで過酷過ぎる日常を送っているのは矛盾と言わずしてなんと言う。まぁ、其処には責任感の強さ故の葛藤があるのだが。
そんな事を考えながら一人笑っていると、不意に声が聞こえて来た。
──硝吸鎌、今日は紅葉を休みにするつもりだけど構わないね?
有無を言わさぬ口調だった。この男は部下をぞんざいに扱いつつも、何だかんだで気を回す。だから一応上司としての役割が務まるのだろう。
私は内心、不服に思いながらもその趣旨は理解していた。だから勿論合意を示す事とした。
「構わんさ。どうせ死んだら私のものなのだから、今世ぐらい好きにさせてやる」
欠伸をかみ殺しながら返答する。出来るだけ本心を覚られないように。
基本的に死を持たない私達にとって、一日は些細な時の経過でしかない。だが其れさえ惜しい思える程に、私は彼奴に執着しているのだ。
「有り難う」
何時ものようにソファに踏ん反り返る。ソファの上で溶けながら、ふと思いついた事がある。
唐紅の意識の中に、要智のものが混じっていた。まぁ、粗方予想は着いていたが些か腹立たしい。
何時か絶対に殺そうと考えつつ、そう出来ないところが“流石、狸爺”と言ったところか。
私は溜め息を着くと取り敢えず眠る事にした。
“狸爺”は短編集にひょっこり先行登場してもらいました(*´∀`)(*´∀`)
嫌われつつも憎めない相手って、狡いですよね(●`ε´●)