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決して変な名前ではない。エジプト神話に出てくる神も“トト”呼ばれる者が居たはずだ。では何故そんなにも躊躇ったのだろうか……?
だがわざわざ聞くことも無いと思い、口を噤んだ。
「そう。“鳥兜”と書いて“トト”と読む」
絶句した。なる程、本人が躊躇って言いたがらない訳だ。
鳥兜は猛毒の植物として有名だ。それに花言葉は“貴方は私に死を与えた”。これ程までに硝吸鎌に相応しい名前は無い。
しかしそれを名前にしようなど、名付け親の気が知れない。やはり先代とも折り合いが悪かったのだろう。
それでも彼は嬉しそうに、さっきとは違った微笑を浮かべていた。無邪気に目尻を下げ、それは玩具を自慢する子供のようにも思わせた。
「好きなの? 自分の名前」
「あぁ……。元は忌み語だが、興味のある者には呼ばれても構わないと思う」
彼の表情は穏やかだった。きっと私には知らない、もっと別の意味を知っているのかもしれない。何時か教えて貰えれば良いと思う。ゆっくり、時間を掛けて、色々な事を知って行けばいい。
「そう……。じゃあ今は“硝吸鎌”と呼ぶ。私が貴方のものになったら“鳥兜”と呼ぶことにする」
そう思ったのは、今の私がその名前で呼べる程に彼と進行が無いから。彼処まで無邪気な表情で自分の名前を語ると言うことは、余程大事にしているに違いない。
だから呼ばない。私が彼にとって無邪気な笑顔を浮かべるに値する人間になってからそう呼ぶ事にしよう。
「私は不知火紅葉。“紅葉”と書いて“クレハ”よ。呼び名は……何でもいい」
基本的に人には“紅葉”呼びを強制する。それも私がこの名前を、彼が名前を自慢するのと同じくらい気に入っているからだ。
でも今回は逆を取ることにした。特別の裏返し。これから半永久的な相棒となるのだから、好きに読んで欲しかった。
真っ直ぐ彼を見つめると、彼も私を見つめ返してくれた。
「では“唐紅”と。秋に染まりし葉の名と、曼珠沙華を連想させるような姿から」
「そう……」
「宜しく、カラクレナイ」
鳥兜の花言葉は紅葉が言ったものだけじゃないんですよね……(>_<)
嫌な意味が多い鳥兜ですけど、一つだけ別の意味が含まれてます。
それに由来して付けられたのですが、紅葉は知らなかったという(・_・)