到着~アンドーヌ郊外~
「ハリー様。そろそろ、アンドーヌ城が見えてきますよ。今日中にはアンドーヌの街に入れましょう。」
と老御者が指差した方角を見ると確かに城の尖塔が見えた。
馬車を得たアリアナとハロルド、それからエマのそれからの旅はトントン拍子に運んでいった。歩きなら、1ヶ月かかる道のりも山に慣れた山や荒れ地に強いアンドーヌ馬車なら、ほんの二週間ほどで着いてしまう。
アリアナとガリアはすっかり、孫と祖母のように親しくなり、エマも慣れたようにガリアの世話を焼いているので、荷台に居場所がないハロルドは代々ミリング商会に仕えているという御者の隣にいることが多くなっていた。御者の男はカールという口数の少ない老人で、ハロルドも無口な質であったので、女性陣のように賑やかに話をしたわけでもないが、こうして、並んで街道を見るのも、今日までかと思うと柄にもなく寂しくなる。
「ハリー様。向こうについてもたまには顔を見せてくださいね。奥様も寂しがられますから。」
「カール爺。もちろん、顔を見せに伺います。」
ハロルドの言葉にカールとよばれた御者は、深い皺が刻まれた顔を柔らかい笑顔にし、それから、少し言いにくそうな顔になって口を開いた。
「もし、お仕事にお困りなら、ミリング商会へお越しください。ハリー様にもいくつかお仕事を紹介できるかと思います。」
ハロルドは路銀のことをすっかり忘れていた自分に苦笑しながら、まだまだこれからだと腰の袋に入れたなけなしの金貨の量を確かめた。