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急変した日常~アルフィールドの街~4

4.

 ハロルドは、急いで役宅に戻り、服や有り金をかき集め、拝領の武具箱に叩き込んで、担ぐと、もと来た道をつけられていないか厳重に確かめながら、アリアナの待つ廃墟まで戻った。

中からはアリアナと女の話し声が聞こえ、ハロルドは女がアリアナを引き渡さなかったことを神に感謝し、扉を開けた。

 ハロルドは目の前の光景に驚いた。暖炉には赤々と火が踊り、アリアナは女と薄汚れた皿に盛られたクッキーと所々欠けたティーカップで、ティータイムを過ごしていた。

「それで、エマさんはここで暮らしているのですか。」

「私だけじゃないよ。でも、気にすることはないよ。いくら、アリアナ様のお父様が名君で立派な人間だといったって、あぶれ者はいるもの。」

 エマと呼ばれていた件の中年の女が入り口でたたずむハロルドを見つけて、手招きする。

 ハロルドは女にアリアナの正体がバレていたことに驚愕し、少し体を固くしながらも、務めて平生を装い、アリアナのすぐ脇に立って声をかける。

「ただいま戻りました。」

「おかえりなさい。ハロルド。よく戻ってきてくれたわ。」

「姫様、この者に素性をお話になったのですか。」

 アリアナは首を振り、エマさんは知っていたと答えた。

 エマが笑う。

「素性も何も、騎士様のその口調とそんな騎士様を連れたこの子を見れば、大概の人は気づくだろうよ。」

 ハロルドは、ハッと剣に手をかけて、部屋の中を見回した。もし、引き渡せば、かなりの額の報奨金が出るだろう。

「何が目的だ。我らを引き渡すか。」

 アリアナは、立ち上がって、ハロルドとエマの間に入る。

「ハロルド、無礼な言葉はつつしみなさい。エマさんは、紅茶を淹れて私をもてなしてくれました。亡くした娘さんの服まで頂きました。」

 ハロルドは、剣に手を掛けたまま、頭を下げた。

「いや、騎士様がお疑いなのも最もだ。でも、こんな娘を死刑台に渡すほど、私も腐っちゃいないよ。アルフィールド様にはちょっとした恩もあるし。で、どこへ行くんだい。」

「一先ず、アンドーヌのおじ様を頼ろうかと思っています。その上で帝都に上り、父の無念を晴らそうかと思います。」

 ハロルドは、狙われてる身でありながら、見ず知らずの女にペラペラと行き先を口にするアリアナに軽いめまいを覚えながら、それでも、素早く頭の中で地図を出してアリアナの言ったおじ様こと、アルフィールドの義兄、ジェームス・アンドーヌ伯爵の所領の場所を確認した。

 アルフィールドからは、街道を真っ直ぐ北上し、3つの村を通り、山を登った中腹にある要塞も兼ねた街だった。その上で、アリアナの足では1月はかかるだろうなと目論んだ。

 エマはアンドーヌを知っているかのようにそれは遠いと呟いた。

「アリアナ様。道中、姫様の顔見知った者は多くないでしょうが、言葉遣いと名前から私のように正体を見抜くものがいるだろう。名前くらい変えた方が良い。」

 アリアナは頷いたが、何かを思い出した様に立ち上がった。

「では、偽りの名を名乗る前に、アリアナ・アルフィールドの名においてやらねばならぬことがあります。」

 アリアナはそこまでで一呼吸置くと、背筋をキリッと伸ばした。

 廃墟のカビと埃の臭いとどことなく怠惰な空気を一変させ、アルフィールド城の謁見の間のような厳粛な空気を作り上げた。ハロルドもエマもシャンとしてアリアナの次の言葉を待った。

「ハロルド・マックイーン。アルフィールド子爵の娘であるアリアナ・アルフィールドとして、そなたに問う。此度の旅は厳しいものとなろう。そなたの主、チャールズ・アルフィールドはもういない。ここで私に付き従わぬとも、父も私もそなたの忠義を疑うことはしない。」

 ハロルドは、アリアナが自分がこの旅に付き添わないと思っていることに少し失望したが、間髪入れずに我が身はアリアナ・アルフィールドの為にと剣を差し出し、跪いて見せた。

 アリアナは嬉しそうにその剣を受け取った。

「汝、我が剣となり、盾となり、我が身を守る騎士となれ。」

 アリアナは、ハロルドの肩に剣をおいた。

 ハロルド主従にとって感慨あるものでも、エマにとっては面倒な儀式であり、そのため息が、仮初の城を廃墟に戻した。

「全く、騎士様は面倒くさいもんだな。」

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