急変した日常~アルフィールドの街~3
3.
広場の極限の緊張が解けると、止まっていた時は一気に動き出し、ハロルドは感傷に浸る時間を与えられることはなかった。
「これから、どうしましょう。ロード卿は私も容赦なく捕らえるでしょう。」
帝国の治安維持のためにほぼ独立して動いていると言われる総取締のロード卿の決定を覆せるのは帝都にいる皇帝陛下ただ一人だった。絶対君主である皇帝陛下がノーといえば、事態は完全にひっくり返る。
とにかく、姫を皇帝陛下の元にお連れし、アルフィールド家の雪辱を濯ぐ。
主の命が無残に散った時、これだけが、チャールズ様を守るために戦えず、死ぬこともできなかった自分に出来る唯一の奉公だとハロルドは心を決めた。
「帝都に上り皇帝陛下のご裁可を仰ぐべきかと。」
アリアナが頷いた。
あてはないが、ハロルドは、とにかくにも、主から拝領した武具と当面の路銀の支度をしなければと、城の近くに与えられていた役宅に戻ることにした。
むろん、アリアナを連れては戻れぬから、強い抵抗を感じながらも、近くにいた中年の女の浮浪者に金をにぎらせ、女の住処だという崩れかけた廃屋にアリアナを押し込む。女に渡した金は、女の生活水準を考えれば、それなりにまとまった額ではあり、エリート意識が強いと言われるロード卿の騎士が、平民以下の下級民である浮浪者のそれも女に近寄るはずもないとハロルドは思っていた。
「姫様。私は一度、役宅に戻り、旅の用意を整えてまいります。しばし、こちらでお待ちを。」
アリアナは明らかに不安そうな顔をしたが、ハロルドが、自衛用にと短刀をアリアナに手渡すと、少し、諦めたような顔をして自慢だった髪をバッサリと切った。
「もう、こんな髪、いりませんから。路銀になさい。」
ハロルドは、女に更に金をにぎらせ、この娘に何かしたら、殺すと思いきり脅しを効かせてから、アリアナの輝くほど美しい金色の髪束を押しいただいて、自らの役宅へと急いだ。