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急変した日常~アルフィールドの街~2

2.

 人の集まっていた広場から、手近にある道を入り、貧しい者達が屯する薄暗い路地に来ると、ハロルドに手を引かれていた娘はこらえきれなくなったとばかり、その手を振りほどいた。顔と身体を隠すように羽織っていたフード付きのマントがひらひらと落ちて、腰まで伸びた艷やかな金色の髪と水を弾くほどの白い肌、アルフィールドの宝玉と言われる程、整った顔が露わになる。ハロルドは慌ててマントを体にかけようとするが、娘は言葉なく透き通った色の瞳だけで気高くそれを拒否して、ハロルドを一心に見つめた。

「ハロルド。失望しました。騎士としての責務を果たさないのですか。」

 娘の声は年に似つかわない威厳のある声で、正しく、アリアナ・アルフィールド、アルフィールド家の一人娘その人のものであった。城にこもりきりになる娘を心配した父親が、お忍びで街を歩く事を進め、それが見事に娘の命を救うことになった。

「姫。あの紋章は総取締のロード公爵閣下のものです。残念ながら、我らごとき騎士にはどうしようもありません。」

 此度の一件はハロルドも納得の行くものではなかった。憤りもある。

 主は民のことを第一とする清廉潔白な名君であると信じていたし、主の為に死ぬ覚悟もしていた。実際、広場で主の顔を見た時、隣にアリアナさえいなければ、このまま切り込むかと、剣に手をかけもした。しかし、ロード公爵の務める総取締は貴族の不正を取り締まることを目的に創設された絶大な権力と軍事力を許されている影の皇帝とも呼ばれる役職であり、広場にいる騎士を運良く全て倒したとしても、反逆者の烙印を押されるだろうし、主が暴行を受け、このような場で、子爵としての最期を迎えられないことからも、近衛騎士団長をはじめ、アルフィールド側のすべての騎士がロード公爵騎士に討たれた事を意味しており、ハロルド一人で向かっていっても、アリアナを逃がすこともできず、斬り死にするのが落ちだということは、容易に想像がついた。

 だからこそ、踏みとどまった。

「では、お父様はこのまま殺されてしまうの。」

ハロルドはただ黙ってうつむいただけだったが、限界まで耐えていたアリアナの眼から涙を流すにはそれで十分だった。

「お父様が何をしたというの。帝国への叛逆とは一体。」

アリアナは誰に言うでもなくそうつぶやくと、涙を止めるように上をむいた。

その刹那、短い気合の声とどさりと何かを落ちる音が広場に響いた。

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