急変した日常~アルフィールドの街~1
1.
アルフィールドは、人口は2000人ほどと小規模の街ながら、ローザン帝国の中央部と北部を結ぶ重要な交易都市として、数多くの貿易商や北部の鉱山で一攫千金を夢見る旅人、それらを護衛する腕自慢の傭兵たちなど、様々な人々でいつも賑う領主、チャールズ・アルフィールド子爵自慢の都市であり、領民たちも領主を名君として慕い、平穏な生活を謳歌していたなんの問題もない町であった。しかし、いつもなら土埃が舞い、賑やかな売り子の声や人々の喧騒の聞こえてくる昼時のその町は異常な静けさに支配されていた。
人々は広場に集められ、その中央には、物々しい鎧を着込んだ騎士に囲まれて、老いた男が跪いている。老人は、街の人々より良い格好をしていたが、髪は乱れ、顔も腫れぼったく、見るからに上等なシャツも破れ、土埃と血がついており、老体に耐え難い所業があった事は明白だった。
しかし、その老人の目は、威厳を持ってキッと前を見つめていた。チャールズ・アルフィールド子爵であった。
やがて、一際立派な金色の鎧を着た壮年の騎士が、アルフィールド子爵の横に意気揚々と立ち、声を張り上げた。
「これより、チャールズ・アルフィールドの処刑を開始する。アルフィールド家は帝国に逆らう反逆者だ。」
人混みの中には、アルフィールド家騎士のハロルド・マックイーンもいた。
ハロルドは幼い頃より近衛騎士になるべく育てられた忠誠心の厚い男だったが、金色の鎧の男の後ろにはためく、三叉槍を持ち嘶く神馬にまたがる騎士の紋章と側で息を殺す少女を交互に見ながら、剣にかけた手を解き、忌々しい紋章を目に焼き付けるように凝視して、隣の娘の手を引っ張るように広場を後にした。