プロローグ
(ご注意)本作品は東方Projectの二次創作作品となっております。
また、初っ端から独自設定が炸裂しておりますのでそちらも合わせてご注意くださいませ。
魔法使いは貧しい。なぜなら魔導書などめくったところで一文の稼ぎにもならないからである。誰も個人の研究に金を出そうとは思わない。たいがい人は残酷だが、その煽りをもろに食らうのが魔法使いという職業なのだ。豊かそうに見えても、みな陰で相応に切り詰めながら生きている。
幻想郷においてもそれは顕著で、ともすれば魔力より経済力が優先されるのが現状だ。魔法使いは何よりもまず食えなければ勤まらない。魔法社会のパラドックスはいつの日も資本主義を主張している。貧乏がいやなら、早々に野心を捨てて金儲けに走った方がよほど賢いのである。
ここに霧雨魔理沙という魔女がいる。
人間上がりながら実力は本物で、凡百の魔女では勝負にならない使い手である。性質は勤勉にして謙虚、飽くなき魔法への情熱もさることながら、しかし彼女のもっとも非凡な点はその先見の明にあった。
彼女は魔法社会に身を置いた当初からその不条理を見抜いていた。標語のように叫ばれる『魔力より財力』のお題目、金銭の多寡が物を言う実状、幅を利かせる資産家気取り、極貧ゆえに埋もれる才能――濁流のような現実は、彼女を夢見る魔法少女から海千山千の魔女に変えた。
絶望の種などいくらでも転がっていたはずだ。魔法は、現実から飛び立つための羽根などではけしてなかった。それだけ取っても彼女を打ちのめすには十分だったのだ。
しかし霧雨魔理沙は立ち止まることをよしとしなかった。
持ち前の明るさと魔法的実直さに貪欲さを加え、彼女は茨の道を歩くと決めた。
同業のアリス・マーガトロイドはしばしば清貧の魔女と呼ばれるが、一方で魔理沙は主我の魔女と呼ばれる。もちろん尊称だ。彼女にとってネコババは立って歩くことと同義であり、空き巣強盗はすなわち彼女の呼吸である。その過程でもたらされる被害など物の数ではない。魔法に向けるひた向きさとは裏腹に、彼女の我欲は道理を踏んづけ平気の平左だ。
かくして今日も事件は起こる。
霧雨魔理沙が、石を拾った。