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亡霊の舞う空  作者: 城山
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プロローグ

 国土の半分に山が連なるわが国はどこへ出かける際も左右を崖に囲まれた山道を進む事が多い。

クラス全員を乗せてぎゅうぎゅう詰めのこのバスでは固定された窓から崖しか見れないのですぐ眠ろうと俺は思った。

 ヒノモトは四面を海に囲まれた小さな島国でありながら現代に至るまで長年独立国としての座を維持し続けてきた。

世界大戦が始まって五年経ってもそれは揺るがず、むしろ国を脅かす世界各国と対等以上に渡り合っている。

大戦の始まる五年前、世界初の人型戦闘兵器ジャイアントマシンの発明に成功したヒノモトに世界各国は羨望の眼差しを向けていた。

経済で行き詰った上に完全に覇権を握られたのだから世紀の発明も彼らには面白いはずもなく、それが理由でもう五年も無益な戦いが続いているのだ。

しかしJMに力を注いだヒノモトは国民一人一人という次元でJMに関する教育をしてきたから軍隊のレベルは非常に高く、今日まで連戦連勝を重ね世界を手玉に取っている。

今は輸出規制を受けている鉄鋼類など原材料を取り戻す為にヒノモトは日夜戦っており、今このバスに乗る中学三年生の俺達の中からも卒業後に兵士の道を選ぶ人が望まれている。

 目蓋を降ろしても変わらず雑音が耳を通り頭の中に響く。

向かう先は模擬演習だというのにこのバスの中には緊張感というものが一切無い。

アタミの寺社巡りをどうするかとか、その近くの土産屋通りの有名店がどうとか、翌日に待ち受ける兵士としての演習に関する話題は全く無い。

しかも彼らはそれを恐れているのでもない。

修学旅行の代わりに規定された模擬演習は義務教育課程終了と同時に兵役が可能になる国民に兵士としての基礎を学ばせる為に実施されるものであるがその実態は観光地への旅行に過ぎない。

初日は軍事施設には行かずアタミの観光地でわが国の伝統文化に触れるという能書きだが、二日目と三日目を合わせても軍事に関わる事に関わる時間は半日分も無い。

そもそもJMの知識に関しては義務教育課程の中で四年学べば軍隊レベルと同等になる。

模擬演習の実施は義務付けられているものの内容は学校に一任されている為、殆どの中学は修学旅行と変わらぬものとなっている。

「僕達が乗る演習機はノイシュタットだけど装甲がそうなっているだけで中身は別物だろうね。」

「我々はもう十分に動かせる領域に達しているのだからどうせなら本物を使わせてくれてもいいだろうに。」

「アシッグ社製もいいけど鹵獲したワイジー製のとかもあったりしないかなぁ。いっその事攻めてきてくれてもいいよね。どうせヒノモトのJMには敵わないんだから連合軍にはもう少しハングリー精神があったって許されるもんだよ。」

だがオマケ程度の模擬演習をメインに捉える変わり者も俺の隣にいる。

ぼんやりとした多田羅と淡々とした折本が眠る振りをする俺を余所に模擬演習への不満を述べる。

ヒノモトではJMを用いたスポーツ競技も盛んであり二人はファンとしては割と中堅であると自負する程に深く知識を持っている。

特にJMスポーツの経験者からすれば今回の模擬演習は遊びのようなものであり興味の対象は触らせてもらえる機体の方に既に行っている。

JMによる圧倒的な技術力のアドバンテージがあるから戦争中にも関わらずこんな雰囲気だ。

確かにこれはただの模擬演習で何の危険も無い。

世界大戦などと言うが本島を攻められた事は数える程しかなく、この国は世界を敵に回してもJMによる優位性は揺らいでいない。

もし仮に世界連合が捨て身の上陸作戦を決行したとしても同じ手数ならすぐに撃退できるほど両国のJMを始めとした戦力には性能差がある。

だから戦争が五年続いていても学生は国内で勉学に励んでいられる、国の敵を格下として見れる平和な世界になっているのだ。

ただ一度の夏を除いて。

そして、俺達の世界もやがて色を変えようとしていた。


 バスの進む道が、崖の向こうに海が開けた瞬間、轟音が側面からバスに降りかかり全員が耳を塞いで堪えた。

窓から差す光が暗い影で覆われ、戦闘機が一機、二機、スレスレを飛んで上昇した。

「近っ!何だ今の!?ぶつかりかけたぞ!?」

「み、見て!海に戦艦が……!」

「連合軍の海軍で採用された艦上戦闘機、それに、あんな見てくれが馬鹿でかい戦艦なんてヘキサ級しかない……しかも最新鋭の!何で連合軍が目の前にいるの!?」

バス中が騒ぎになる中、多田羅がこの一瞬で戦闘機二機と海に浮かぶ戦艦を識別したので更にパニックが起きた。

「起きろヒエイ、寝てる場合じゃない。連合軍が攻めてきてる。」

「出鱈目言うなよ折本!連合何かがどうしてこっちに上陸してんだよ!ワノ国に敵うはずが無いだろ!!!」

「きっとあれは海軍が鹵獲して持ってきた戦利品だよ!そうに決まってる!」

「大体!向こう岸の大陸と太平洋の諸島には、軍が前線基地として占領してるからあんな時代遅れの戦艦でここまでこれるはずが無いじゃないか!」

聞こえているというのに淡々と俺の肩を揺すって折本が状況を説明し、それをすぐに他の奴らが大声で否定する。

ヒノモトの西には数百キロしか離れていない位置に大陸があり大国が座っているのだが、ヒノモトは開戦後すぐに手を伸ばした。

オマケに反対側の海に浮かんでいる島々へも進撃しており、連合軍が本土へ直接攻め込むには大きく迂回する必要があり、更には分厚い防衛網を突破する必要がある。

しかしこれはどう見ても太平洋の海に連合軍の戦艦が四隻あって、青空の向こうが銀翼の群れで覆い尽くされていた。

巨大戦艦の時代はとうの昔に終了していて今は戦闘機をも上回る戦闘力を持つジャイアントマシンの時代だ。

あんなものがヒノモトの本土を目指そうものならまず哨戒機に空爆を貰い、次いで駆けつける本隊による爆撃の嵐でここまで辿り着けないはずだ。

だから戦闘機やJMが次々と本土に乗り込んできている様を見てもこんなに騒いでいるんだ。

何かの間違いだと皆困惑している。

「皆さん、当バスは一度道を引き返します。どうか落ち着いて着席を……」

運転手がようやく興奮を抑えた声でアナウンスをした瞬間、何かの発射音が遠くで聞こえた後でバスが大きく揺れ、落下していくような感触が身体に伝わっり悲鳴に包まれた。

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