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1話*時期はずれな転校生

 中学校生活にもいい加減慣れてきて、クラスメイト達がハメを外し出す頃。外では蝉が煩く鳴いていた。教室という密室の空間に閉じこめられて朝日が不快指数とやらを上げていく。夏だ。俺にはいつからいつまでが夏かなんてよくわからないが今は間違いなく夏だ。朝日は眩しいのレベルを越えている。ジリジリ、空気が悲鳴をあげているのがわかった。公立学校などにはクーラーというハイテクな物はない。俺は天井のあちこちについている首振り扇風機を追うことに夢中になっていた。

「おはよう小山。いい朝だね」

「いい朝?これが?朝っぱらから汗でシャツしめってるし。気持ち悪い。憂鬱〜。」

クラスメイトも俺と同じようにシャツが若干湿っている。多分気持ち悪い。しかしこいつは俺と違ってどこか楽しそうだった。

 今日は月曜日。しかしそれ意外の何でもなくごく普通の月曜日だ。「何かあんの」と下敷きで身体を仰ぎながら訪ねてみると、ああまた暑苦しいことを。クラスメイトずいっと顏を近づけて至上の笑みを浮かべ一言だけ口にした。

「転校生」

 もう一度確認しておこう。今日は月曜日。確かに休み明けの月曜日ではあるがそれ意外は何もないごく普通の月曜日だ。ゴールデンウィーク開けでも夏休み明けでもない。ただの月曜日だ。季節外れ、いや時期外れな転校だな。家庭の事情というやつだろうか。俺はこの13年間(正確にはまだ誕生日を迎えていないので12年と少し)転校はおろか引っ越しというものを経験した事がない。

「男?女?」

「知らない。でも多分、男」

「なんだよ余計熱くなったじゃねえか」

「小山が聞いてきたくせに」

「お前が嬉しそうに言うんだからてっきり女かと思ったんだよ」

「小山、期待はいけない。期待するとね、裏切られた時の痛みは大きいんだ」

「じゃあ期待させんな。ばか。ばーか」

性別問わず単純に"転校生"というものに胸を躍らせるクラスメイトとは裏腹に、俺は潤いを求めていた。今は誰がなんと言おうと夏なんだ。しかもその終わりはまだ先にあると思われる。確実に女子より男子の割合が高いこの地獄の密室でさらに男が増えて嬉しいものか。いや、健全な男子中学生として主張する。男はいらん!たかが中学生男児と甘く見る事なかれ。俺は中学生である前に男である。

「おいお前ら、早く席につけ」

ふてぶてしい先生の声で現実に戻る。いよいよか。いよいよこの教室内の不快指数が一割り増しする時がきたか。外では相変わらず蝉が煩く鳴いている。

「どうせお前ら知ってるんだろ。転校生が来るって」

「先生の話はどうでもいいからさー、早く転校生紹介してよねぇ」

いつも髪型の違う、世間一般でいう"お洒落"な女の子が笑いながら言った。いいよな君は。男子が来ても女子が来てもなんだかんだで嬉しいんだろうよ。その素晴らしい思考を俺にもわけてくれ。

「じゃあ入っていいぞ」

ガラ、と小さく扉の開く音が聞こえる。廊下の涼しい空気が教室を冷やした。しかし今は夏だ。俺にはいつからいつまでが夏かなんてよくわからないが今は間違いなく夏だ。朝日は眩しいのレベルを越えている。ジリジリ、空気が悲鳴をあげているのがわかった。

「はじめまして、神崎夢子です。縁あってこの学校に転校してきました。」

気温が下がったわけでも夏が終わりを告げたわけでもなかったが、俺の身体は色んな意味で芯まで冷え切った。

 腰まで伸びるストレートの髪。その髪の一部を細く右上に赤いリボンでまとめている。かわいいというより美人というのか?中学1年生らしい顔なのに冷たいく潤んだ瞳を輝かせ、大人びたオーラをふるまいている。担任と並んだところで背丈はあまり高くは無いのだろう。だが、大人びているせいかスラッと高く見える。こんなに暑いというのに冬服を着ているというありえない格好だが、俺はその姿をみて血の流れが止まった感じがした。

 事実上、これが俺、小山裕太郎と神崎夢子の出会いであった。

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