扉の前では堂々としていましょう
ここは人里離れた森の宿。冒険家たちに安眠を提供するこの宿には、入口の前に人が倒れていていることもしばしばだ。
「はーい」
入口の扉を叩く音に、宿の娘が対応する。
「いらっしゃいま……あれ?」
歓迎の言葉が止まり、疑問となる。扉を開けたそこに、誰も立っていなかったのだ。気のせいだったかと思い、扉を閉めようとする。しかし、扉が何かにぶつかって動かない。娘が視線を下へ送ると――
「め……めし……」
――地面を這う男がいた。娘は思わず叫んだ。
「ひぃ、覗き!!」
そして、娘の蹴りが男の顔面に炸裂。扉から蹴り飛ばされた男は気を失ってしまう。
「あ、やばっ……」
娘は宿主に事情を話し、その男を宿へ運び入れた。
「こういう人はたいていは行き倒れだから、次から気を付けろよ」
「はい……すみません。反射的に、つい……」
「それじゃ、わざわざ服装を統一している意味がないよ。まったく……」
宿主が呆れ顔なのは、言うまでもないだろう。
みなさんも気をつけましょう。