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そのとき雀がないた

 ジャンル:恋愛

 構成:結起承転

 縛り:『涙』『告白』の要素を入れること

 男子高校生が恋愛小説の主人公になるとして、さて、ヒロインは一体誰がいいのだろうか。先輩とか後輩とか同級生とか。まあ色々あるのだろう。昨今のライトノベルに代表される、PTAの三角眼鏡共が声をそろえて批判しそうな萌えを中心とした物語だと、ヒロインは獣人とか、人の枠にとどまらなくなったりするが、それはまた別の話だ。

 まあしかし、ライトノベル信者様方は現実を見ようぜ。「恋愛小説みたいな恋愛がしたい~」なんて言う女子が今の時代にどれだけいるのか俺は知らないが、しかし不特定多数の彼女らはまだ現実的な発言をしているよな。どっちもどっちな気がするが、それでも俺は恋愛小説押しだぜ。

 さてと。

 ライトノベル信者である俺は、いい加減現実を見ようと思う。

 人には詮索されたくもない過去があるものだ。この過去が果たして恋愛小説みたいなものなのかどうか、俺はまったくわからない。恋愛小説なんて読んだこともないからな。

 正直に言おう。

 恋人がいるということが、俺はいいことだと思わない。

 例えば、唐突な話になるが俺には付き合っている女子がいる。同級生で、まだ知り合って二ヶ月も経っていない。

「好き。だから付き合ってください」

 いやはや、直球過ぎて驚いたもんだ。てっきり俺は『男子から女子に告白しなければならない』という忌まわしき暗黙がいまだ了解されているものだとばっかり思っていたからな。

 告白された当時、知り合って一ヶ月。

 俺はなぜか断ることをしなかった。

 別に何もおかしくない。

 別に何もおかしくはないだろ?

 たとえ俺が、別の人を好きだったって。

 たとえ俺を、別の人が好きだったって。

 とある少女Aが俺に告白をして、俺は断らず、少女Bは彼女持ちの俺に好かれ続けて、少女Cは彼女持ちの俺を好き続けて。

 何がいったいおかしいんだ。

 おかしくない。だからこそ、俺は主張する。

 恋人がいることは、悪いことかもしれない。

 身も心も砕け散って風に乗って飛びそうなのに、俺は周りの男女から嫉妬の混じったおめでとうをもらい、意味もなく幸せに生きていることになっている。

 ああ、そうさ。誰が悪いかと訊かれたら、もちろん俺が悪いのさ。

 だけど、どうしようもないだろ?

「好きだよ」

 なんて隣で笑顔を浮かべながら言われて、まさか「俺は別に、心の底から好きってわけじゃない」とか言えるかよ。「俺は別の人が好きなんだ」とか「俺を好きな人が他にもいてさ、今、そいつが悲しんでる」とか言えるかよ。

 だから俺はこう言うんだ。

「俺も好きだよ」

 人間として失格な俺は、どうせ雀の涙みたいな短い期間だと思い込んで、涙を呑んで『幸せ』を噛み締めるのだ。



 留年したくなかった。だとすれば進級か退学しかなく、何ともやりきれない気持ちで二年生になり、クラス替えが行われた。俺のクラスは理系科目を選択した男女が集まるクラスで、男女比はおよそ3:1。華やかとは程遠い、室温とテンションが異様に高いクラスに配属された。

 その初日である。

 とりあえず、クラスで一番責任の重い室長職に就いた。

 まあ、それはあまり関係ない。

 俺はとある部活に所属しているのだが、始業式である今日は特別に休みで、終業後にクラスメイトと話す余裕があったのだ。

 室長として、とりあえず全員の顔とフルネームを覚えたり、メールアドレスを交換したりした。

 そのとき、異様に俺と喋りたがっていた女子が二名ほどいたのを覚えている。というか、忘れようも無い。


 夜、当然のことなのかイマイチよくわからないが、俺は携帯片手に奮闘していた。大方新しくメールアドレスを交換した人とは一度くらいメールしよう、という迷惑に近い風習めいた使命感から沸くありがたい心遣いからだろう。三十九人中十八人相手にメールを交換していた。

 わかりきっていたことというわけでもないが、やはりクラスメイトの某女子二名はなぜか深夜までメールが続く。女子高生ってこんなもんなのかなー、とか一年遅く感じていたが、なんか二人とも、メールに対する熱の入れ方が違うように感じた。

 正直、眠かった。

 俺は変な気分になる。

 一週間おきに来る、幼馴染の元彼女からのメールが恋しいのだ。




「成就する恋が幸せだとは限らない」

 なんてことを口にする、恋人のいない変人がいた。

 高校に入って半年後、俺が『幸せ』になる七ヶ月前の話である。

「そりゃまた、どうして」

「いや、だってさあ。君の話にたびたび出ている幼馴染の子。彼女って、君に対して未練があるんだろ?」

「まあ、たぶんそうだ」

「別に過去の君が幼馴染の子を嫌いながら彼女と付き合っていたというわけじゃないだろうけど、今のような事態に至るなら、君たち二人の成就した恋っていうのが、幸せだとは私には到底思えないんだよ」

「なるほど。そりゃ確かに、こんな気まずい雰囲気になるくらいなら、元恋人同士って関係よりは永遠の幼馴染のほうがよりよい関係のような気がするさ。けどよ、先輩。アンタみたいな捻くれものに言わせれば、幸せであることが良いことで、不幸せであることが悪いことだと限ったわけじゃあないんじゃね?」

「そうだけど、一般的には幸せであることが良いことと信じられているんだから、それはそれで従っておけばいいんだよ。不吉の象徴とされる黒猫を神とする場所では異国人も神として崇めるしかなく、クリオネを神とする場所では異国人も神として崇めるしかないのと同じだ」

「なぜクリオネなんだ……?」

「まあ、そもそも恋愛感情の原点は性欲だし、男はそのまま肉体的な関係を求め、女は派生してロマンチックな関係を求めるもんだ。恋愛における男女の幸せの定義は違う。違うと言うか、差がある。知ってるかい、男女雇用機会均等法は女が就いていた職業に男が就けるようになったわけではないんだぜ」

「ふーん」

「もっとも女の私としては、男にも動物であるよりも人間であってほしいと思うけどね」

「はあん。本当にアンタらしくないな」

「君は君らしいね。相変わらず先輩に対する態度がなってないな」

「たかが先輩、されど先輩」

「どちらも私を馬鹿にしているとしか思えないけど?」

「だけど先輩、俺にとって先輩は動物であるよりも人間であるよりも、永遠に先輩であるんだぜ?」

「そりゃそうだ。当たり前だろ。私は君に好かれることもなく、君を好くこともない。この世が君を主人公にしたギャルゲーだったら、私はエロいシーンも攻略ルートもファンディスクも無い、永遠にただのモブキャラだよ」

「そのたとえ、微妙にわからねーよ」

 とか。色々と考えさせてくれる変人な先輩だった。

 ……それはそうと、この人といるとなぜか俺まで変人扱いされたもんだ。まったく、心外な。俺は人に言われるほど変人ではないのに。

 その先輩も、もう卒業している。



 女の子に好かれ、自分も女の子を好くことができる俺は、残念ながら幸せだ。

 幼馴染の元彼女が俺のことを今でも好きでいてくれるのは嬉しいし、俺だってあいつのことが嫌いになったわけじゃない。なるわけがない。

 高校生ながらに悟ったように思うのは人生の先輩方に失礼かもしれないが、俺だって、俺が好きだったあいつとずっと一緒にいたかった。

 別れた理由が明確じゃないからいけないけれど、俺はあいつと一生過ごせるような気がしなかった。あいつを異性として見たら、なぜか申し訳なく思えてしまった。

 別れを申し出たら泣きながらだけど頷いてくれたから、言葉を掛けても傷つけるだけだと思ってハンカチを渡して、雀のように小さな彼女を家の近くまで送った。ハンカチを渡したままにしたのは、俺の存在ことゴミ箱に捨ててほしかったからなのだが、後日、ご丁寧にアイロンまでかかったハンカチが郵送で送られてきた(幼馴染の家は遠い)。そのときになぜか『合格祈願!』と書かれた鉛筆も受け取り、高校一年生だった俺は首をひねりながら真意をメールで聞き出そうとして、それで今もメールを交換する仲でいる。

 さて。

 この時点で既に最低な気もするが、最も低いならば自分でマントルにぶち当たるまで穴を掘るモグラのような男である俺は、この後も人間としての価値を下げるのだった。

 先輩に相談したらあのような返事がきたのだが、それはそれとして、先輩卒業後の二年生の俺は部活に生きるスポーツマンであるにもかかわらず、新しい恋をして悲しい気持ちを抑えたかった。

 例の女子二名のうちの一人――冒頭で述べた少女B――を俺は好きになった。可愛らしい容貌だったり、仕草だったり、それでいて活発な性格で、室長の俺を陰で支えようとしてくれている女の子。感謝すると共に魅かれていって、俺は少女Bのことを好きになった。

 同時期。

 風の噂で、例の女子二名のうちのもう一人――冒頭で述べた少女A――が俺のことを好きだと聞いた。とはいえ、こういう噂はたいていガセなので、俺は別に今までと変わらずに、最初から最後までいつもどおりに接していた。

 四月二十八日。

 補習もないのになんとなく学校に早く来て、ぼーっとしながら俺以外誰もいない教室の窓を開けて空気を通す。チュンチュンと可愛らしく鳴く雀を机に突っ伏しながら見つめていると、

「好き。だから付き合ってください」

 耳元で囁かれた。

 驚いて飛び上がると、俺のことが好きだという噂の少女Aが、緊張で硬くなった笑顔で俺のほうを見ていた。

 誰もいなかったはずの教室には二人がいた。

 俺と、告白してきた勇気ある愚か者。人間のクズである俺を好きになった人。

 俺はただ一言、

「うん、俺も好きだよ」

 と答えた。

 決して嘘ではない。俺が最も好きな少女Bに次いで、少女Aは信頼できる女子生徒だった。彼女に心惹かれることがなかったかと言われると、どうしてもあった。

 大好きではなかったけど、好きではあった。


 当日、俺が喋らなくとも、女子生徒の間で徐々に噂が伝播していった。情報の伝達とは速いもので、俺と少女Aが付き合っているらしいことはクラスメイト中に知り渡った。もちろん、少女Bにもだ。

 その夜、誰が伝えたのかは知らないが、幼馴染から「良かったね」という一言だけの電話をもらった。

 少女Bからは噂の真偽を問うメールが届いた。俺は事実を伝えて口止めすると、「おめでとう」の文字に笑顔と薬玉の絵文字がついたメールが届いた。


 翌日。

 風の噂で、俺の好きだった少女Bが俺のことを好きだったらしいことを聞いた。

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