1匹目 訂正、美少女は三次元にもいたようです(2)
まぁこんなことがあって今は交番にいるわけなんだが・・・なんでだろう、市民の平和を守る御方の俺を見る目がさっきより険しいものになった気がする。
「事情なんて一切聞かなくていいですから早くこの変態を逮捕しちゃってください。」
「いや待て、そんな横暴がまかり通るほど今の日本は無法地帯に「ガチャリ」」
おやおや?
発言中になにか犯人の行動を制限するのに適した手首にはめるもの、もしくは特殊なプレイをするために重宝されそうな道具がはめられた音がしたような?
いやまさか、平和を愛する国家権力のい・・・げふんげふん!
ともかくこれはなにかの間違いだろうと自分の手を見るとそこには一般的に手錠と呼ばれるものが俺の両手首を見事に拘束しておられた。
「あの~、なにゆえ手錠をかけられなければならないんでしょうか?」
「今の話をされて手錠をかけない理由が見当たらないのでありますが?」
なんて会話ができない警官なんだ。今の話で充分俺の無実は証明されただろうに。
しかし手錠なんか嵌められてしまっては強行突破といううわけにもいかないし、どうしたもんか・・・
「あの、そろそろいいですか?あたしこれから入学式なので。」
「そうでありましたか。あ~でも被害者の方にも事情を聴いたり書類に書いてもらわないといけないこともあるのでこのまま行かせることはできないのでありますよ。」
そうだそうだ。
俺なんかすでに手錠まで掛けられてしまっているというのに自分だけ入学式に間に合いたいなんて、なんて自分勝手なやつなんだ。
「じゃあどうしたら早く解放してもらえるんですか?」
「それはこの男が自分の罪を認めさえすればあとはこっちでテキトーに処罰するでありますよ。」
おい。本人を前にしてさらっととんでもないことを口走ってないかこいつ。
というか認めるもなにも今回の件は完全なる冤罪というやつで、俺は無実だという主張を最後まで貫き通すぞ。
「ふぅん・・・」
なにやら俺を見つめながらなにか考えている様子の美少女様。
そんな見つめられると興奮しちゃうぜ、とか俺が新たな境地を開きかけていると
「とりあえずこの人の手錠は一旦外しちゃっていいです」
おおっとこいつは意外な申し出だ。
一度は逮捕しろとか言っときながら今度は解放しようというのか。
これはあれかい?新しいツンデレの形かなにかなのかな?
だとするなら今までの横暴としか言えない態度もデレの前のツンだったわけだな。
なんとも可愛らしいじゃないか。
「本当にいいのでありますか?」
「かまいません」
ぐふふ、そういうことなら解放された後でこのツンデレ美少女を思うさま愛でてやろうではないか。
まずどうやって俺のこの溢れんばかりの気持ちを態度で示そうか考えていると考えがまとまるより先に手の拘束が解かれた。
「ふっ、このツンデレ美少女め。国家権力をも利用するその新しいツンデレにいきなりでついていけなかったが今はもう万事了解した。思う存分君を愛でてやろう。」
「は?な、なに、急に何なの!?」
「はっはっは。またツン状態かい?君のツンとデレがどういう比率になっているのか解明し甲斐がありそうだ。」
まだ心の準備ができていないのかな?思ったよりもウブじゃないか。
俺がその心を解きほぐしてあげようと両手を広げてゆっくりと彼女に近づいていくと
「それ以上近づけば再逮捕であります!」
ちっ、なんて空気の読めないやつなんだ!
これからが俺とツンデレ美少女とのお楽しみタイムの始まりだというのに。
だがまた手錠を掛けられては身動きが取れなくなる・・・ツンデレ美少女との甘い一時は惜しいがここは退いた方が良さそうだ。
しかし逃げ出さないようにと入り口側に警察官様がいるからな。
どうやってこの場を切り抜けるか・・・
「あ。」
「?」
どうやら相手は俺が声を出した意味に気づいていないようだな。
まぁ気づいているならとっくに閉めているはずだ、ツンデレ美少女を庇おうと咄嗟に動作を取ったことに寄って、半開きくらいだったものが全開になってしまった・・・
社会の窓を。
「なんだかわからないでありますが観念して逮捕されるであります!」
「あー!警察官さん社会の窓開いてますよー!」
今まさに手錠を持って迫ろうとしてきたところで彼の失態を告げてやる。
「なんでありますと!?」
「今だ!」
言われて確認しようとしたところで相手の横を走り抜ける。
「あ!ま、待つでありまぎゃっ!?」
振り返ることなく俺は学校への道を全力疾走する。
おそらく最後の悲鳴は慌ててチャックを上げようとしたため不幸な事故が起きたのだろう。 ちょっぴり同情するぜ。
「あれ?そういえばあの娘はどうしたんだ?」
逃げ出すのに必死であのツンデレ美少女を忘れていた。
「まぁ同じ新入生だし学校に行けば会えるか。」
あのツンデレ美少女に再び会うためにも一度止めた足を踏み出して学校へと向かおうとしたところで
キーンコーンカーンコーン
「・・・あれ?」
携帯を取り出し時間を確認する。
デジタル表記は午前8時を示していた。
はっはー、入学式初日から遅刻とか間違った方向に高校デビューしちゃった気分だぜ。
「最悪だ。」
がっくりと肩を落として落ち込むこと数分。
とりあえず式に間に合わないまでもSHRには間に合わせないとな。
結局高校生活の初日から躓いてしまった事実に打ちひしがれながらとぼとぼと学校へと向かう。
それが現在進行形の俺、熊田かま・・・
「こっの・・・ド変態のマジキチ野郎!」
ドゲシッ!という音がぴったりハマりそうな見事なドロップキックを背後から浴びせられた。
ちなみに」なぜドロップキックかわかったかといえば靴らしき感触をダブルに背中で感じたからである、つーかマジ痛い。
背後から急な衝撃が来ると人って咄嗟に反応出来ないもんだよね、おかげでコンクリートに顔面スライディング。
「ちょっと、いつまで寝てるつもり?さっさと起きなさいよ。」
甲子園常連校の高校球児だってびっくりな顔面スライディングを決め込まされた人間に向かってよくそんな冷たい言葉が出てくるね。
すぐ泣くよ?絶対泣くよほ~ら泣くよ。
「いてて・・・いきなりなにをするんだ。」
思いっきりコンクリで擦ってしまった鼻を擦りながら俺を蹴った張本人の方に向くと、まぁ概ね予想通りの人物が立っていらした。
「あんたこそなにしてくれてんのよ!?あんたのせいで入学式に間に合わなかったじゃない!」
だったらこんなとこで俺を蹴り飛ばしてないでこれ以上遅れないためにも学校に向かえばいいのに。
というかなぜわざわざ俺につっかかてきたんだこのツンデレ美少女は。
「どうやらその様子だと、どうしてあたしがあんたにわざわざ声をかけたかわからないようね。」
声をかけられるだけならさっきの続きをしてもいいくらいのテンションだったろうけど実際は足が来たからな。
きっと正面で受けていたなら丸見えだったろうな・・・なにが?なんて質問は野暮ってもんだ。
「まぁ変態にもわかるように話をすると、あたしが今日遅刻するはめになったのはあんたのせいだってことを先生に説明してもらうためよ。」
え?なに?要するに朝このツンデレ美少女と出会った件から始まって、誤認逮捕で警察のお世話になりかけたことまでを話せと?
しかもそれをこれから3年間お世話になる学校の教師に言うの?
それなんて羞恥プレイ?
「そんなの始まる前から黒歴史じゃねぇか・・・」
いやだ・・・さすがに高校生活初日からユニバースしたくない。
「ほら、ぶつぶつ言ってないでさっさと進みなさいよ。あんたに後ろは歩かせたくないし。」 よし、こうなったら・・・
「あ!ちょっとあんた逃げる気!?」
当然だ。素直に従う理由はない!
出来うる限り全力疾走で距離を離す。
あぁ、なんでこうなったのか・・・あそこで猫を追うなんて選択をしなければよかったんだろうか。
後悔は猛烈にしているが抗えることなら全力で抗ってやる。
とりあえず今はあのツンデレ美少女から逃げ切ることが俺に出来る最善の抵抗手段だ。
そんな目の前の運命に全力で抗うナイスガイ、それが俺、熊田鎌太だ。