0匹目 美少女は二次元の産物
『二兎を追うものは一兎をも得ず』
この言葉を聞いたことがない、知らないってやつはあんまりいないと思う。
簡単に言えば、2匹の獲物をいっぺんに捕まえようとしても結局は両方に逃げられて手元には1匹も残らない、要するに欲を出しては元も子もなくすって話だ。
さすが昔の人はいいこと言うね。
確かにそういうことはよくあると思う。
たとえば自分がどうしても欲しい!ってものが2つあって今目の前にそれがあったりしたらどっち買おうかなぁって悩んだりするし。
そういう時はもちろん親に小遣いの前借りを申請しておいて両方を買う準備をしておけば何の問題もない。
もちろんこれは物に限った話だ。
これが物じゃなくて人に関わることだと一気に話は難しくなってくる・・・まぁわかりやすいものでいえば相談事とかな。
もし同じタイミングで相談なんて持ち掛けられてみろ、俺のキャパでは到底処理しきれないことをお約束する。
中には両方の相談を受ける!なんて心の容量がテラバイトありそうなことを言うやつもいるかもしれないがそんなのは大抵上手くいかない。
上手くいくやつがいてもそいつらは少数派だろうね。
そんな少数派の一人になれなかった俺みたいなやつが取れる行動は、せいぜい片方の相談事を真剣に聞いてやるくらいだ。
なに?片方の相談を聞いてからもう一人の相談も聞いてやればいいじゃないかって?
つまり、こいつの相談を受けてからお前の相談を聞くから待っててくれ、そう言えってかい?
残念ながら俺にそこまでの度胸はない。相談を聞く側はそれがベストアンサーだと思うかもしれないが後回しにされたやつはどうしたらいいんだろうね。
俺がそいつの立場だったなら素直には相談を言えない心境になるだろうさ。
まぁもっとも、俺が複数の人間から相談を受けるようなことはあり得ないけどな。
なぜかって?ふっ、簡単な話だ。俺には友達と言える人間が一人もいないからな!
・・・俺も残念な美少女達と一緒に友達作りのための部活でも作ろうかな。
そのためにはまず美少女とお知り合いにならないと。どうやったら美少女と知り合えるのかね?
世にも珍しいチャリジャックに合うとか男子トイレでうっかり男装執事の下着を見てしまうとかドM体質を治すためにとある部活に相談に行くとか建前を何とかしようと夜中に神社へ猫の像へお願いに行くとか・・・
いやもちろん冗談ですよ?まさかそんなことが俺の身に起こるわけないのはわかってますって。
しかも今出したたとえはどれも出会いっていうよりは事故みたいなもんだしな。
やっぱり美少女との出会いといえは道の曲がり角でぶつかるってのが定番だろう。
おっと、もちろんトーストを咥えてることが大前提だから安心してくれ。しかもトーストにはイチゴジャムが塗ってある。
それがどうした?と思ったやつはまだまだ甘い。
よく考えてみてくれ。ぶつかった拍子にジャムが制服に付いたりでもしたらどうだ?
「あっ、ごめんなさい!私ったらぶつかってしまったうえに制服に汚れまで・・・」
「なぁに、あなたのような美しい人に出会えたことを考えればこの程度の汚れなど大した問題ではありませんよ、はっはっは」
「それでは私の気が済みません・・・そうだ!私の家、すぐそこなんです。染みになってしまう前に洗わせてください。」
「え?でも家の人の迷惑になるんじゃ・・・」
「お父さんもお母さんも朝早くからお仕事なので今は誰もいないんです。だから遠慮せず私に任せてください」
「女の子に全部任せるなんて俺のポリシーに反するな・・・むしろ俺にすべて任せてくれないかい?」
「えっ?あの、私そういうつもりじゃ・・・」
「いいから、俺に任せて。力を抜いて身も心も委ねて・・・」
「は・・・はいぃ」
イエスカモン!ついに来たぜ俺の時代!ここから俺とこの子のめくるめくハートフルラブライフが始まるんだぜ!
・・・さて、話を戻そうか。
さっきまでのテンション?知っているかね、ある一定の領域を踏み越えるとコトを済まさなくとも妄想を終了しただけで賢者タイムに突入できるのだよ。
てかそもそもなんの話をしてたんだっけ・・・?
あぁ、美少女との出会い方・・・辺りで脱線したんだったな。大丈夫、さすがに冒頭から内容がループするなんて高等テクを使うつもりはないから安心してほしい。
まぁ要するにだ。俺には友達なんてもんがいないから相談事とは無縁なわけだ。
それでももし、万が一俺に友達が2人以上できて同時に相談事を持ちかけられるような時が来たら俺は多分・・・
見上げれば雲ひとつない空、それでも若干の肌寒さが残っている。
歩く道には満開とはいかないまでも綺麗な桜色をした花弁が目につく。
いい天気だ、新たな学生生活の始まりとしては申し分ないスタートが切れているんじゃないだろうか。
と、これから入学式へと向かう新入生らしい爽やかな気持ちで通学路を歩いていたのは数分前の俺。
今はというと、上を見れば黄ばんだ汚れが目立つ天井、それでも若干の白さは残っている。
目の前には全開とは言わないまでも社会の窓から覗く下着が桜色の警察官様が視界に入る。
と、これから取調室に向かうような濁やかな気持ちのまま交番の中で事情説明をさせられているのが今の俺だ。
一体なぜこんなことになってしまったのか・・・正直こんなことに巻き込まれるような破天荒な生き方はしてないしこれからもする気はない。
こうなってしまったのだって悪いのは俺ではなく、警察官様の後ろで頬を桜色に染めて被害者面をした霧生咲とかいう俺と同じ新入生のせいだ。
仕方ない、身の潔白の証明のためにここに来るまでになにがあったのか、目の前の正義感が吹きこぼれを起こしてる御方に話すとしよう。
20XX年、日本は核の炎に・・・・・・殴られた。まずは場の空気を和ませようという俺の心意気を理解してくれなかったようだ。
最近の警察はずいぶんと心が狭くなったじゃないか。まぁ、真面目に話すと今朝こんな一幕があったのだ。