少女1
はじめまして、管理人です。
今回が初投稿になりますので色々と未熟ではありますが、どうぞご容赦ください。
基本的に管理人は臆病で打たれ弱い、脆弱な現代の若者です。
そちらをご了承ください。
それでは拙い文ではありますが、よろしくお願いいたします。
春野聖良は偏差値が少し高めの高校に通うお嬢様である。
といっても家がお金持ちでというわけではない。お嬢様というのも通称で、彼女の見た目があまりにも深窓の令嬢を彷彿させるために、彼女の友達がつけた所謂あだ名なのだ。
ふわふわとした色素の薄い栗色の長い髪に、ぱっちりとした大きな眼。少しうつむけばバラ色の頬にはまつ毛が影をさし、少しふっくらとした唇はやたらとエロイと同級生からのもっぱらの評判である。目も眩むようなプロポーションこそ持っていないが、手足はすらりとしており全体的に細く、華奢な印象を残す。
彼女の容姿はほぼ母方の祖母より受け継いでおり、母親とはあまり似ていない。彼女の母の髪は濃いどちらかというと黒に近い茶色であるが、髪を染めていない人のほうが少ないかもしれない現代ではありふれた色であった。その点彼女は見事に遺伝を受け継ぎ、波うつ髪はそれこそ光に透ければ黄金色と見間違わんばかりである。
両親はそこまで容姿端麗というわけではなかったが、二人とも相思相愛で未だ経っても新婚と思われるほどだ。だからと言って子供を疎んじているわけではなく、彼女は二人の愛情を惜しみなく浴びて育ってきた。
幼い頃は祖母のもとで育てられたため、日本語は当然ながら英語は勿論、仏語も難なくお手のものである。
どこをどう見ても、類を見ないほどにお嬢様であった。
その思考回路をも含めて。
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穏やかな風に吹かれて、少女はふと目を覚ました。
まず目に入ったのは幾重にも重なるレースと、その向こうから射す日の光。昇りきっていないためか、又は硝子に阻まれているせいか強さはあまりなく、ただ一日の始まりを告げていた。
目を慣らすように瞬く彼女に声がかかる。
「おはようございます。セーラ様。今朝も健やかな目覚められたことに感謝を」
「………ぇえ、あ、あー、おはようエマさん」
少し戸惑いつつ挨拶を返して、セーラと呼ばれた少女は苦笑した。
日を一面に浴びた部屋を目だけで一通り流し見て、メイド服を着た己の侍女に向かってお願いを試みる。
「エマさん、その、やっぱり様付けは…………」
わたし庶民出身だし、やっぱりなれないって言うか恐れ多いんだけど。
特にエマさんみたいな美人に言われると場違いにもほどがあるし、なんか居た堪れないです。それにわたし民主主義の階級制度のない場所で育ったんですよ。だからほら、せっかくのお友達には普通に呼んでもらいたいといいますか………つまりは敬称なしの呼び捨て希望で!
「では姫神子様」
間一髪で放たれた別名にセーラは撃沈した。
毎朝のことなので返答する侍女には微塵の迷いもなければ戸惑いもなく、というよりむしろ別名で呼べたことに対する喜びさえあふれているようで、放っておけばこの後もその呼び方で呼ばれてしまいかねない。
実例がほかにいるだけに、まさかとは言えない。勝率が少ない賭けを行うには、代償があまりに重い。その代償の名を、羞恥心と呼ぶ。
まさかの時は、延々と姫神子様と呼ばれ続けるのである。
姫神子様だ!
この国の人たちがどう思うかは定かではないが、現代で育ったセーラにとっては拷問に近しい呼び名である。何といっても“プリンセス”が付くのだ。幼児でもない限り付加されて嬉しい形容詞ではない。
これでも通称なので、改まって呼ばれるとさらに長くなる。おまけに恥ずかしさも倍増。
みんな正式名を呼びたがるので、一人でも許してしまった場合は恐ろしいことになりかねない。とういか、絶対なるに決まっている。容易に連想できる環境にいることに絶望した。
断固拒否しなければ、どうなるかわかったものではない。
諦めて頭を抱えた。
「うぅー。名前呼びがいいですー……」
「ふふ、本日はいかがなさいますか、セーラ様」
慣れたように笑う侍女に恨めしげな視線を送りつつ、往生際悪くうなり声をあげる。差しのべられた彼女の手を借りて寝台から降りて、今日も今日とてセーラは白旗を振った。
「おまかせします」
朝だというのに、放たれた言葉には微塵の生気もなかった。
さてさての始まりです。
どうぞよろしくお付き合いくださいませ。