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愛しの勇者さま  作者: 鈴宮
帰都編
7/22

6/魔術

この大陸の生を司るのは魔力です。

つまり魔力とは、生き物ならば魔族であろうと魔族以外の人間や動物であろうと誰もが持っていてもおかしくない、生の力なのです。

魔王山は大陸の最北西に位置しておりますが、この大陸をささえる魔力の中心です。

だからそこに、魔力の番人である魔王陛下が在らせられ、魔力の集まる魔界が存在します。

年月を経るうちに、魔界と人界の境界は明確になり、魔界に住む者と人界に住む者とで圧倒的な差ができるようになりました。

魔界の環境は人界とは全く異なります。

我らにはなんともなくとも、踏み入れて空気を吸っただけで命を落とす人間が圧倒的に多い。

魔力とは生きるための力ですから、魔族はその力を発揮しやすいように身体を進化させてきたのです。

また、魔界では安定的状態と危機的状態とが容易に覆ります。

おそらくそれらが変態の理由でしょう。

極度の変化に順応するために、強制的に身体を強化させる必要があるのです。

また、極度の変化する環境が影響し、同種が続きにくく変種が多い。

だから強力な魔力を持つ上級・中級魔族が生まれるのです。

その中から最も魔力を持つものが魔王となり、魔力の番人となります。

魔王とは魔族の王ではなく、魔力の王です。

貴女はこの大陸に生きる全ての者の王なのです。

魔王は魔力を司る存在であるために魔王山に縛られます。

歴代の魔王の中には魔力の程度によっては、魔界を出ることはおろか魔城を出ることさえ困難な者もいました。

だが、貴女は違う。

おそらくこの大陸が生まれて以来最大の魔力をお持ちだ。

貴女そのものが魔力の塊と言っても過言ではないほどの莫大な魔力。

きっと貴女はこの大陸のどこにいらしたとしても、魔力を司ることを困難としないでしょう。




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




魔力と魔王について教えてくれたのはヴィサだ。

教えられなくとも、知っていたような気はする。

「あー、つまり、魔力は俺達でも持ってるってこと?」

「勇者さまの魔力はかなり強力で、ジェンニもそれなりに強い」

だから二人は魔界に魔王退治に来るのだと思ったのだ。

「じゃ、魔族と人間の違いって、何?」

「変態できるか否か」

それまで興味深そうに聞いていた勇者さまがやっと口を開いた。

そうでなくては私がこんな七面倒くさい説明をした甲斐がない!

「だが、俺は魔術なんぞ使ったことはないが」

「魔力を体外に放出して力として使える者は魔族でも稀で、上級魔族や中級魔族でも力を還元できないものはいます」

「持ってても使えない、宝の持ち腐れってこと?」

「粗忽者! 魔力をより持っている者は魔力が効きにくかったり、魔界で活発に活動できるのです。魔力が効かないというのは、魔力を使える者にとってはかなり不都合ですから。自分の魔力より小さい魔力攻撃は効きません。基本的には魔力量が強者弱者を決めます」

だから勇者の存在が成り立つの!

魔力の効きにくい勇者、魔力の少ない魔王、その偶然が重なった時、稀に魔王を倒す勇者が出る。

魔力をあまり持たない魔王は本当に身動きさえ制限される程の負荷がかかるらしい。

その鬱屈を晴らすために人界から人を浚ってきたりと残虐な方向に奔るので、人界側からすると余計に魔王を退治する必要が出てくるらしい。

「基本的に、というのは例外があるわけか」

ああーん、さすが勇者さま。

「はい。人間とはおもしろいもので変態に代わる(すべ)を編み出しました。それが魔術です」




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




魔力を還元する時には、魔力を引き出すための魔力が必要となります。

私も含め、変態後の姿を隠すものは少なくありません。

自分の力を最大限に引き出しやすい姿を晒すということは、弱点がばれやすいからです。

人間の場合は変態しませんから、魔力を還元する力は軽減されません。

多く持つ者にとっては微量の魔力でも、あまり持たない者にとってはそれも大きな負担。

その負担を軽減するために魔術を編み出したのです。

術式は詠唱や印を結ぶ方法が基本ですが、記述式であったり魔術書を使うなど様々です。

高位魔術を短時間で使うならば術札を用意しておいたり、その場で術式を書き込むことが多いようですね。

術式を文字にしてそこに魔力を込めれば手間はかかりますが確実に発動できます。

上位の魔力使いなら詠唱だけで済む者もいるし、無詠唱でできる者も理論的にはいるはずです。

魔族は魔術を逆輸入したという訳です。

私も人界で変態の姿に戻らずとも魔術を使えるように詠唱や術札の使い方を覚えました。

高位の魔族がよく使う手です。

変態せずに魔力を使えれば人間を騙しやすい。

自分は強力な魔術師だと偽ってね。

魔術の開発が進めば進むほど、魔術が普遍化されればされるほど、魔族に騙される人間が増えたのはそういうことです。

ある意味自業自得ですね。

なくても生きていける(すべ)をも自分たちの手に入れようとしてしっぺ返しを食らうのですから。




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




「なるほどな、やはり魔術なんぞ碌でもないってことだな」

「あれ、でも魔術を使えば俺でも魔術を使えるってこと?」

「さあ。防御魔術くらいなら使えるんじゃん?」

「…リュリュちゃん。頼むからもうちょっと俺の地位あげてくれないかな。これでも騎士なんだけど…、一応都では結構な身分なんだぜ…?」


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