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愛しの勇者さま  作者: 鈴宮
帰都編
5/22

4/失敗

滑らかに出てくる作り事の数々。

人間はそれを嘘といって忌み嫌っているけど、こんなに便利なものをどうして厭うのか。

名はリュリュ。

齢15。

父である天才魔術師ヴィサと共に山奥で暮らしていたために世間に疎い。

もっともこれらはあながち嘘とはいえない。

自分の名前は長すぎて嫌いだし、ヴィサのような者を人界では父親と言うし、魔城は魔王山のてっぺんにある。

生まれたのは10年前だが、魔族と人間は発育過程が違うから人間の年の数え方は当てはまらない。

魔族は魔力の量等によって数多く、また大きな変化を伴う変態を必要とするものもいるが、私はあまり変態を必要としなかった。

私の場合は変態といっても体長が変わったくらいで、ある意味人間の発育過程と似ている。

生まれた時点でおよそ80cmだった体長が、その5年後におよそ120cm、さらに5年で150cmと変態している。

この身体は最近変態を終えたばかりで実はまだ勝手がよく分からない。

今はまだ成虫期を待つ蛹といったところで、おそらく数年後にまた変態するはずだ。

成虫期といえば、人界では15で成年とみなされる。

体長150cmというのは15歳の人間を語るとしては少々小さいらしいが、体型は15でも通るとヴィサが言っていたのでそのように名乗った。

体型といっても元々人型なのだが何をもって年の頃を測るのかとヴィサに聞いた。


「人型のメスの特徴はしなやかな曲線です。ご変態後の魔王陛下のお身体は成熟しているとは言い難くも、お側に控えておりますような熟れきった女にはない、一瞬で過ぎ去ってしまう新芽のような瑞々しさに溢れている点が測りどころと言えましょう」


恍惚として語っていたヴィサは、直後、横で聞いていたエイネから容赦のない一撃を与えられてたっけ。

あの二人を止められるのは私以外にはいないのに上手くやっているのかな。

私が生まれる前は上手くやっていたんだろうけど今とは立場が違うし少し心配。

何の覚悟もなくいきなり全てを任せてきたのは気の毒だったかもしれないから、やはりちゃんと褒美を考えなければ。

魔界の事情はともかくとして、勇者さまは私の身の上に納得したみたいで、旅の予定などを話してくれた。

色々と聞いたような気がするけど、私は勇者さまの顔を眺めながら声を聴くのに一生懸命だったのであまり覚えてない。




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




「異臭を放っている上に猛毒で近づけないのでお手上げです。住民は一応避難させていますが風の強さや向きによってはかなりの距離まで届きます。実際この屋敷の外にも漂ってくるぐらいですから、庶民のボロ屋じゃ防ぎようがありません」

「処理隊を頼むとなるとどんなに早くても20日はかかるな。それまで我慢しろというのは酷か」

私は勇者さまと共にガマの家に泊まることになり、今は明日の予定について話している。

といっても私は話の内容には興味がないので勇者さまの横に寝転んでいるだけだけど。

あー、眠い。

「…隊長、懐かれてませんか?」

「む…」

「なんで!? こんなおっさんのどこがいいの!」

「おい」

「いや、確かに隊長はかっこいいと思いますけど、十代の女子の好みからするとちょっと渋すぎっつかムサいっつか、どっちかっつうと男にモテるタイプじゃないですか」

「どういう意味だ!!」

「や、怒んないでくださいよ。変な意味じゃなくて、部下からも慕われてますし」

「……おい、小娘。女ならこんなところで寝るんじゃない」

勇者さまの声に覚醒を余儀なくされてしまった。

「ヴィサの娘というのは嘘じゃないようだな。常識がまるでなってねえ。こっちはアルゲンタビスの処理に頭を悩ませているっていうのに良い御身分なことだ」

アルゲンタビスの処理?

「勇者さま、お困りだったのですか?」

「おーいおいリュリュちゃん、俺たちの話聞いてなかったの?」

「アルゲンタビスは毒を飛ばして乾燥肉にすれば人間でも食べられ、好む者も多いと聞きますが」

勇者さまとジェンニは驚いた顔をした。

「もしかして、できるのか?」

「やったことはありませんが」

自信はある。




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




ここで魔力を使うとバレる可能性があるというのは、処理が終われば明日には出発するというので気にしないことにした。

よく考えてみればヴィサとエイネの仲ではまだ魔城の混乱を治めていないだろうからすぐには追手もでないと思う。

耐えがたいほど嫌いな血肉の臭いを勇者さまのために我慢しながらアルゲンタビスの死体の前に立つ。

「ぐぁああ! この臭い! 腐ったみたいな酸っぱいようなあきらかに毒ですって臭い!! リュリュちゃん何で平気なの!?」

「……これも魔術師の力か?」

毒だけ出して保存してもおもしろいかもしれない。

でも、そんな細かいことしてたら魔王ってばれるかも?

小細工は面倒くさいしさっさと焼いてしまうか。

あ、乾燥だったら直接火で焼くのはまずいよね。

そういえば羽はどうしたらいいんだろう。

毟るのか?

そんな面倒な。

ああ面倒くさい。

もういいや、とりあえず焼こう。

毒血が染み込んでいる土も焼いてやらねば人間が生きていけないだろうし。

だから、地表と羽だけ焼滅させたつもりだったのに。

「消えたー!!!? 地面抉れてるよ!!?」

「どういうことだ!?」

失敗した。


へんたい【変態】

(1)形や状態が変わること。また、その変わった形や状態。

(2)「変態性欲」の略。また、その傾向のある人。

(3)動物が成体とは形態・生理・生態の全く異なる幼生(幼虫)の時期を経る場合に、幼生から成体へ変わること。また、その過程。

(4)植物の根・茎・葉などの器官が本来のものと異なる形態に変わり、その状態で種として固定すること。捕虫葉・葉針・気根・巻きひげなど。

(5)〔物・化〕 同じ化学組成をもちながら、異なった物理的性質を示す状態または物質。特に、単体の場合は同素体、結晶の場合は多形ともいう。また、有機化合物が化学組成を変えずに原子・原子団の位置の変化で別の状態・物質に変わること。転位。

「三省堂 大辞林」より

……(3)に近い意味で使っております。

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