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愛しの勇者さま  作者: 鈴宮
帰都編
21/22

従者の話4/召喚

黒幕を目の前にした俺達は当然抵抗し、なんとか反撃しようと動いた瞬間、見えない圧力に地べたに叩きつけられて全身を微動だに動かせなくなった。

眼球も動かないし、声すら出せない。

瞬きもできないからそのうち目が乾きそうだ。

俺はぴくりとも動かけなくなったが、隊長はまだ地面に叩きつけられることなく耐えていた。

それでも身体を動かすことができないらしく、凶器じみた眼つきで奴らを睨みつけているだけだ。

魔術師も驚きの表情を浮かべたが、次の瞬間には隊長は俺よりも手酷く地面に叩きつけられてしまった。

やつらは俺達の武器だけでなく服すら全て剥ぎ取った。

「まずはお主を餌にしてみるか。これだけの美女を差し出すのは惜しいからな。大した魔族は吊れんだろうがな」

むちゃくちゃ楽しそうに魔術師は笑った。

俺は全身を固められたような圧力に抵抗できず、無防備で間抜けな姿を晒す羽目になり、頭は沸騰しそうだ。

奴らの部下が俺を奇怪な模様で綴られた円の中心に運んだ。

長ったらしく禍々しい呪文が延々と唱えられはじめた。

動けない俺がついにうとうとしかけた頃、いきなりそれは襲った。

全身を物凄い力でぶんぶん振りまわされているような激震。

内臓がぶっとびそうな強烈な浮遊感。

胃の中身が逆流してくるような気持ち悪さ。

吐く・・。

ま、ま、魔術師なんて碌なもんじゃねえぇええ!!!!

吐き気を堪えながら、奇怪な模様で綴られた円の中心で叫んだ。

声にはならなかったけど。

最後に見えたのは俺と同じく動けなくなっているにもかかわらず俺に向かって何か必死に叫ぼうとする隊長の姿だった。

半ば白目で記憶もはっきりしない俺はいつのまにかふわふわと温かいモヤに包まれているのを感じた。

強烈な不快感はどこへやら、気持ちよすぎて目も開けれられないほどだ。

生まれたまま姿という心許ない格好にもかかわらず、俺は全てを放棄してこのまま安らいでしまおうとしていた。

だがそれをふわふわと妨げるものがある。

心地の良いモヤが取り払われて軽く冷気を感じ、俺はぼんやりと目を開けた。

予想外の顔があった。

「リュリュちゃん?」

女王様顔のリュリュちゃんがいる。

俺やその他の人間には平気で向けてくるが、隊長には絶対に向けないリュリュちゃんのデフォルト。

正直嫌いじゃなかったし、あからさまで分かりやすい彼女は可愛くもあった。

隊長もちゃんと取り合ってあげればよかったのに。

いや、アレでちょっとは絆されてたのかも。

年がなんだとか魔術師がどうだとか設定がおかしいとか色々あるが、なんだかんだいって魅力的な存在には違いない。

ってそういや隊長って…あ、やべー、俺たしか魔族を召喚する生贄にされたんだよな。

でも目の前にいるのは魔族じゃなくてリュリュちゃんで、っていうか召喚するどころか俺がどっかに召喚されたのか?

てことはなに?

あいつら儀式失敗したってこと?

さまあっ!!

だっははははっ・・・って、待て、待て、待てよ。

殺すには惜しいとあいつらでも考える程の美女達の代わりに隊長が殺される…?

やべー! やべーって、隊長!




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




「いや! 勇者さまは勇者さまじゃないと嫌なんだってば!!」

俺は走るリュリュちゃんを追った。

一緒にいる銀髪美人の正体や、陛下とやらのことはとりあえず置いておこう。

何も考えられないが、なんとなく着いて行ったら間違いないような気がした。

リュリュちゃんと銀髪美人しか見えない空間でひたすら彼らを追いかけた。

随分時間が経っているような気もしたし、そうでもないような気がしてきた頃に、先頭を直走っていたリュリュちゃんが目の前の薄明るい膜をぶち破った。

寸分違わず同じ場所だったが、状況は少し変わっていた。

なぜか水なんて一滴もなかったはずなのに足元は水でびしょ濡れで、かなりの時間をかけて描かれただろう円の模様は消えかけていた。

新たに描かれただろう円の真ん中で隊長が首を落とされようとしていた。

魔術師と貴族は隊長の首に斧を振り降ろそうとしていた男を制止して、リュリュちゃんと銀髪美人を見て目を輝かせた。

だがその輝きはまばたき一回することすら許さないような短い時間で消え失せた。

今度は消滅じゃない。

リュリュちゃんの目の前に立っている、隊長以外の人間は全員見えない何かに吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

運のいい奴は多分気絶で済んだんだろうが、運の悪い奴は仲間同士でサンドイッチになったり、壁から突き出ている変な飾りに突き刺さったりしていて物凄い叫び声が上がった。

多分それをやった張本人であるリュリュちゃんは阿鼻叫喚の状況が目に入っているのかいないのか、茫然としている隊長にしがみついて勇者さま、勇者さまと恍惚とした声で呟いていた。

もし見えているんだとしたら凄まじい精神構造だが、見えていないのだとしたらそれはそれで怖い。

なんだかこれって一件落着ってことなんだろうか。

困り顔の隊長をぼやっと眺めていたが、俺の隣で同じ光景を見ている銀髪美人が身体を小刻みに震わせていることに気付いた。

ちらりと顔を見ると全てを氷結させそうな眼差しで隊長を睨みつけている。

やっぱりこいつがヴィサなのかな。

そりゃあ娘が全裸の男に嬉々として抱きついていれば相手が誰であれ殺したくもなるかもしれない。

だが奇天烈すぎる娘を育て上げた責任は自分にあるのだろうから、俺としてはフォローしにくい。

黙っているとその氷の眼差しは俺に向けられた。

「陛下に免じて貴様をりょうるのは後にしてやる」

ぎょっとする間もない。

俺達の後ろで自分達の仲間が吹き飛ばされる様を唖然として眺めていた奴らも仲間と同じ運命を辿っていた。

肝が冷えた。

料るって、いったい何をするつもりなんだ。

とばっちりもいいところだ。




 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




驚愕が頭の中を占めていたせいか俺は自分のいでたちを思い出すのにだいぶかかった。

それに年頃の少女を全裸の男に抱きつかせておくのもまずい。

普通なら犯罪級の状況だ。

俺はのびてる奴らからちょっとずつ服を拝借した。

あくまで拝借だ。

どんなに諭しても離れようとしないリュリュちゃんを抱いたままの隊長になんとか服を着せて、怒れる銀髪美人(推定ヴィサ)を連れて宿に帰ってもらった。

俺はのびている悪役共と全裸のまま残された美女達の後始末に追われて、宿に帰りついた頃には日付が変わっていた。

それなのに疲れきって戻った部屋では身も凍るようなブリザードが吹き荒れている。

平然としている隊長がすごすぎる。

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